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裏切り者
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医務室では机に向かってにらめっこしているユウの姿があった
机に広げられているのは低学年用の計算ドリル
椎名がユウのために買い与えたものだ
三年かかってやっと意思疎通もほぼ問題なくできるようになったユウに椎名は次の段階を用意していた
それは簡単な計算と読み書きができるようになること
それを一つの目標として椎名は時間ができるとユウに勉強を教えるようになっていた
「いい?5-3はいくつかな?この間やったの覚えてる?」
「えっと....えっと.....」
けれど、義務教育を全く受けていないユウにそれを教えるのは並大抵のことではなく、数の概念すら持ち合わせていない事に椎名は苦戦していた
高望みをするつもりはないがせめて簡単な足し算と引き算それから名前ぐらいは書けるようなればそれは自立への大きな一歩になるのだが....
「えっと....あの....あっ....」
「大丈夫だよ、ゆっくりでいいからね」
けれど声をかければかけるほどユウは混乱して次第に目を潤ませていく
「泣かなくていいよ、また最初からしようか....それとも今日はもうお仕舞にする?」
「.....しないっ...やるのっ」
悔しそうに口を尖らせながらもユウはやる気だけは十分にある
人一倍努力家のユウはこうやって少しずつ言葉を覚え、たくさんのことを吸収してきたのだ
今はできないこともきっといずれできるようになると椎名は信じている
「先生っ!俺にやらして!?」
そんな二人の様子を隣で見ていたマナトがドリルを覗きこんで元気よく手を挙げた
あれだけ尖っていたマナトも今ではすっかり落ち着いて毎日のようにここへきては甲斐甲斐しくもユウの世話を焼くようになっていた
二人がじゃれ合い戯れる姿は見ているとほっこりさせられて椎名達の癒しにもなっている
「いいか?!ユウはアメを5つ持ってるとするじゃん!!で、俺が一個もらう。そしたら残りはいくつだよ!?」
「えっと...えっとね....い....いっこ?」
「はぁ?!なんでだよ!?」
「だってユウ...いっこでいいの!あとはマナくんにあげる!!」
満面の笑みでそう答えるユウにがっくりと肩を落としたマナトが舌を出す
「ダメだ、こりゃ」
「ははは、優しいなぁユウくんは」
そんなとんちんかんな答えもユウにとっては一生懸命考えだしたものの1つだ
自分で考えて答えを導き出すことは例えそれが正解じゃなくても大事にしてあげたい
ーーそんな中、涼介が医務室に訪ねてきた
いつになく真剣な顔で後ろには秘書の千春を引き連れている
「マサキ、今いいか?」
「あぁ、いいよ」
二人の掛け合いからこれから大事な話が始まるようだ
マナトは誰に言われるでもなく立ち上がった
きっと仕事に無関係な自分がいるのはよくないだろう
そう思い部屋を出て行こうとしたマナトを涼介が呼び止めた
「待て待て!マナト、お前に話があるんだよ」
「え?!」
マナトは一瞬たじろぐと急にげんなりした顔を涼介に向ける
「なんだ?お前、その嫌そうな顔はっ!」
「どうせ、また説教だろ」
「ちっげーよっ!!、いいから座れ、バカ」
勢ぞろいした涼介達を前にマナトは促されるまま席に着いた
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