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マナトの目の前にはむっつりとした涼介、相変わらず穏やかな椎名、そしてツンとすましたままの千春が並ぶ 特に大柄で威圧的な涼介が派手な千春と並ぶとなんだか凄みがましてマナトは首を縮めた なんだろう...って....俺またなんかした?? ドキドキしながら記憶を辿ってみるもののユウと和解してからは特に思い当たる節がない どうしたものかと思っているうちにようやく涼介が口を開いた 「お前さ、うちでバイトする気ある?」 「は?!」 マナトは目を見開いて涼介を見つめた 予想外の話にマナトの思考回路は固まり理解しようにも追いつかない ぽかんと口を開けたままのマナトに涼介は淡々と話を進めていく 「俺たちとしては毎日ここに遊びに来るよりはバイトって形の方がいいと思うんだけど。まぁ、バイトっていっても雑用とほとんどがユウのお守りだけどな」 「バイト....」 「別に対して今と変わりない。でも多少なりとも金は出るし、お前としてもここに来るのに遠慮がいらなくなるだろ?こっちとしてもそれならマサキがもっと動きやすくなるしありがたいんだけどな」 テーブルを軽く指で小突きながらまるでプレゼンするように話す涼介 マナトは目の前を動く彼の骨ばった手をじっと見つめていた 提示された願ってもない話に心が躍る 自由に会社に出入りしていいといわれて甘えるように足を運んでいたものの、ここはあくまで仕事場だ スーツ姿の社員に紛れてエレベーターに乗るとき、何度怪訝な顔をされたことだろう 場違いな自分がどれだけ浮いた存在なのか言われなくても分かってる それがバイトでも雇ってもらえるとなれば誰に気兼ねすることなく堂々とここへ来ることができるのだ きっと自分のような奴には逆立ちしたって入ることのできないこの会社に 「どうする?まぁ、お前次第なんだけど...」 「やる!!!」 断る理由なんてあるはずもなくマナトは二つ返事で頷いた こんなチャンスは2度とない 「あ、そう。じゃあ、決まりだな。マナトやるってよ?」 仰ぐように振り返った涼介が千春に合図する するとそれまで一言も口を挟まなかった彼女がコホンと咳払いして一歩前に出る そしてマナトをまっすぐ見つめると「その代わり条件があるの」と目の前に書類を差し出した 「これ....」 受け取った紙に目を通したマナトは一瞬にして青ざめた さっきまで浮かれていた自分が恥ずかしくなるくらい身体が冷たくなっていく 震える手に握られた書類には自分の名前から始まり身辺の内容が事細かくびっしりと記されていた

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