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「調べたの?」
喉をごくりと鳴らして恐る恐る言えたことはそれだけだった
マナトの背中に一筋、冷たい汗が伝う
「悪いとは思ったけど、知られたくないなら偽名使うぐらいのことしないと大人は騙せないわよ」
千春の斜めから見下ろす視線に目の前は途端に真っ暗になった
生い立ちからここに至るまでの経緯、趣味嗜好、交友関係とそこには事細かく記載されている
当の本人さえ忘れてしまっていたような事まで全部だ
それはマナトが今まで生きてきた人生そのもの、ペラペラの紙にふさわしい薄っぺらな人生だ
悲しかった
マナトはただただ悲しくなってしまった
できれば知られたくなかった
知られずにやり直そうと思っていたのに.....
ショックが隠し切れずうつむいてしまうマナトを見て涼介はふいに立ち上がった
千春を押しのけてマナトに近づき、下を向いたおでこを指で弾く
「今さら傷ついてどうすんだよ、バカ」
軽い痛みに勢いよく顔を上げたマナトに涼介は呆れて腕を組む
「今さらお前がどうやって生きてきたかなんて関係ねぇよ、どうだっていい。要はこれからだ」
「でも...俺」
「俺はこの会社のボスだ。だから全社員を守っていかないといけない責任がある。だから正直トラブルは避けたいっていうのが本音なんだよ。だからもしお前が今まで通りに売りなんてやってしょっぴかれでもしたらうちも無傷ってわけにもいかないんだ。ましてお前はまだ17だろ?未成年で挙句住んでいるところは俺の家。足引っ張られたら笑えないんだよ。」
軽口から次第に真剣な目つきに変わっていく涼介の目をマナトは逸らさずに見つめ返した
「言ってること分かるか?誰とは言わない、お前にだって付き合いとか義理だとかあるだろうから。でも考えてほしい。これは遊びじゃない、仕事だ。働けば社員だろうがバイトだろうが関係ないんだ」
涼介はマナトのすべてを知っている
マナトがどこでどんな人間と連れだって何をしていたのか
それは一字一句、間違うことなく書類に記されていた
よく出入りするクラブの名前
掴んでいた客の名前
そして...マナトが信頼していた友人、樹の名前もそこにはある
みなまで言わずともそれが涼介達から提示された条件
条件は今までの仲間と手を切ること
「......」
自分にそんなことができるのだろうか
全うな生き方ではないにしろ自分が生きていく上であれだけ世話になった人を簡単に自分の都合だけで切ることなどできるのだろうか...
それでも常識的に考えても涼介の言っていることは正しい
そもそも涼介達が自分にここまでする義理はない
本当なら厄介払いしたいはずの自分を身の回りだけでなく仕事まで用意して迎え入れてくれる
仲間と手を切るのはもちろんしのびない
だけどやっと見つけたこの場所も失いたくはない
マナトの心は大きく行ったり来たりを繰り返し揺れていた
どうするべきか...
すると迷い悩んでいるマナトに涼介の手が伸びる
それはマナトの髪に触れ、ふわりと頭の上に落ち着いた
「その代わりお前がちゃんとするなら俺はなにがなんでもお前の事、守ってやるよ」
「...っ...」
その何気ない言葉に胸がドキンと高鳴る
気がつけば大きく振れていた心の振り子は涼介に向ったまま動きをとめていた
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