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、
「やる」
もう一度、今度こそはっきりと迷いのない返事をしたマナトに誰も反対しなかった
涼介は深くうなづくとパンと両手を鳴らして沈黙を切る
「よし、じゃあ決まりな!これで話は終わりだ」
それを、きっかけに緊張感に包まれていた部屋に一気に穏やかな空気が流れ込んだ
「そうと決まればこっちで手続きしておくから」
「んあっ!?もう!?」
「当たり前だろ?とりあえず今日は定時まで。じゃあ、あとはよろしく」
後のことを椎名に任せると涼介は早々に次の仕事へと気持ちを切り替える
千春と共に足早に去っていく後ろ姿は忙しい男のそれだった
涼介はいつでもせっかちだ
忙しい男は例え一秒でも無駄にしたくないらしい
まるでこっちの都合などお構いなしの態度にはいささか問題もあるけれどそれでもマナトは十分に理解することができた
涼介は関心がないようなふりをして自分を安全な場所へと救い上げてくれたのだ
「あいつはもうっ!少しは落ち着くって事がないのかな」
嵐のように去っていった男に椎名は呆れて肩を竦める
少しくらいマナトに激励の一言でも送ってくれてもバチは当たらないというのに....
それでもマナトのためにすぐに行動に移せる涼介には”さすが”としか言いようがない
そもそもマナトに仕事をさせようと提案したのは涼介だ
自己肯定の低いマナトのような人間には何か役割のようなものを与えたほうがいい
誰かの役に立つ事ができれば自分の価値も再認識することができる
ここなら気心も知れてるし、何かあれば助けてやることができるだろう
涼介からその考えを聞かされた時、椎名はもちろん大賛成した
もしかしたらそれを通して失った自信も取り戻せるかもしれない
無価値だと思いこんでいる今は形のない言葉より仕事のような結果が目に見えるほうがいいということもある
そうして涼介はいつでもマナトが始められるように準備を急いだ
猛反対する千春を根気強く説得し、ようやくそれが実現できることになったのだ
あとはこの結果がどう出るか...それはもうマナト自身の問題だ
「俺、ちゃんとできるかな?」
あっけにとられていたマナトがぽそっと呟くと不安気な顔で椎名を振り返る
マナトはまだ用意された幸運に心の整理がつかないよだ
今まで辛かった分、こんなにも事が上手く運び過ぎで嬉しいよりも戸惑いの方が大きい
「なんか展開が早過ぎて...」
その後に続く言葉は椎名にも検討がつく
"怖い"と吐き出す前に椎名はそれを遮った
「大丈夫だよ、みんなが付いてるから」
マナトは少し考え込むと深呼吸して拳を握る
そこには言葉にならない決意が漲っているように見えた
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