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ーー携帯が震える 今日も、昨日もその前も... 着信音にするとうるさくて仕方なくバイブにしてみたものの、今度は机に置いておけば急に踊り出すもんだから驚き過ぎで心臓が痛い 「出れないよなぁ」 ディスプレイに表示された見覚えのある名前に心苦しくてマナトは肩を落としていた 「どぉしたの?」 隣にはテーブルに突っ伏すマナトを心配そう覗きこむユウがいる ユウにはこの状況など分かりっこないけれどそれでも悟られないようにマナトは携帯をポケットの奥にしまい込んだ アルバイトという名目でこの会社に来るようになって数週間 だからといってやる事は特に変わらずもっぱらユウの相手だ 絵本を読んだりお絵かきに付き合ったり、一年生くらいの算数や国語もたまにやる これが仕事なのかと言われればそれまでだけど 椎名からはそのおかげで仕事に専念ができると喜ばれたりしてマナトとしても問題はなかった 所詮学もない自分など雇ってもらえるだけありがたい 同じ時間に起きて今までの自分なら着ないようなちょっとキレイめな恰好で、サラリーマンに紛れて急ぐように通勤してみるとなんだか少し大人になった気分になる 決められた時間通りに規則正しく生活するなんてバカみたいだと思っていたのにこんな生活もあるんだなと思える自分に少し驚いたりもした ここには自分を役立たずだと罵るやつもいなければ、仕事をさせる代わりに身体を要求するやつもいない いるのはとびっきり呑気な奴と過保護なくらい心配症な大人ばかりだ 「おぉ、やってるな!?」 涼介は時間が空くと医務室にちょくちょくマナトの様子を見に来るようになった 「別にしょっちゅう来なくても真面目にやってるっつーの」 「お前のことだからユウをいじめてんじゃねぇかって心配してんだよ!なぁユウ?マナトにいじめられてないか?」 涼介は毎回こんな風にマナトをからかいにやってくる ちょっと小馬鹿にした物言いはいくら感謝してるとはいえ、毎日見てれば腹も立つ 「こらこら、マナトくんはユウくんに勉強を教えてるんだから邪魔しないで」 間に椎名が入っても涼介は構わず嫌味を続ける 「は?勉強?お前ユウに変なこと教えたらただじゃすまないからな」 「くっ....ふざけんな」 悔しさのあまりマナトがとうとう反論しようとしたその時、医務室のドアが勢いよく開いた 「やっぱり!ここにいた!!毎日毎日、探すほうの身にもなってくださいね!!」 美人な横顔に怒りマークを携えた千春が現れればこの騒ぎもまた一旦終了だ 涼介は千春に首根っこを掴まれると仕事の現実へと引きずられていく 毎日騒がしくて取り留めのない日常 それでもそんな毎日もなんだか悪くないと思える今日この頃 「......」 ねじ込んだ携帯はまたしても奥の方が震え始めた 今さら相手は見なくても分かる 問題はいくら先延ばしにしても都合よく消えてくれるわけではない ーー今まで共に過ごしてきた仲間と手を切ることに簡単に納得できたわけじゃなかった 彼らは大切な仲間だし友達だと思っている 彼らのおかげで今まで野垂れ死にすることもなく生きてこれた だから本当はきちんと会って自分の気持ちを話したい けれどいざそうしようと思うと怖気づいてしまう自分がいた 自分達は同じ種類の人間で同じような境遇で生きてきた みんな同じが当たり前で少しでも違ってしまえば途端に浮いた存在になる マトモになりたいから縁を切りたい...なんて 一抜けするような理由を誰が納得するのだろう 良かったじゃん!がんばれよ!と送りだしてくれる仲間が一人でもいるだろうか..... 一番の親友である樹はなんていうだろうか ならこっそり抜けだして言い訳することもできたけれど、やっぱり仲間に嘘はつきたくない それにまた夜中に出歩いたりして涼介達を誤解させたくもなかった なんだか中途半端でどっちつかずな自分がひどく身勝手に思えた だけどやっぱり1番に思うのは... この場所を失いたくはないという事 だからマナトは心の奥で樹達に謝りながら着信に気付かないふりを決め込んだ いつかきっと....そう近いうちにちゃんと話せるようになるから 時間がたてばきっと彼らも分かってくれるとこの時のマナトは信じていた

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