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「出た?」
「ぜーんぜんっ!!完全にシカトしてる。メールも無視」
「ふーん....」
あてもなく走らせる車の中で男たちは不満げな声を漏らしていた
折り返しの電話を期待する期間はもうとっくに過ぎていた
連絡がつかずどうしたものかと心配するのも終わり、残ったのはそれになんの反応も返さないことへの不満だけだった
「最近、付き合い悪いよなぁ、マナトの奴」
「本当だよな!?電話にも出ないってふざけてる!そう思いません!?樹さん!!」
鼻息を荒くしながら一人の仲間が助手席から振り返ると樹は座席のシートにもたれながら携帯を弄っていた手を止めて顔をあげた
「さぁね、もう俺らと会いたくないんじゃない?」
さしてマナトの事など気にもせず、樹はパワーウィンドウのボタンを押して窓を開けた
不満と愚痴で充満した車の中が少しでも換気できたらいい
そう思いながら半分開いた窓から顔を覗かせる
すると車は見覚えのある大通りに差し掛かっていた
この辺は大きなビルが立ち並ぶオフィス街で自分達にはほぼ無縁な場所だ
流れるように歩く人達はさも自分たちはまっとうな人種だと見た目で、歩き方で、仕草で主張している
「あれ...ここ」
信号が赤に変わり停車した交差点で樹の記憶に蘇ったのは......
マナトと偶然出くわしたあの日
歩道に立っていた金髪はこんな所だとよく目立ち、樹はすぐにそれがマナトだと気付いたのだ
あの後はいつものように飲みに行き、場違いな理由を聞いたものだ
樹を信用しきっていたマナトは躊躇うこともなくペラペラと自分の周りに起きた出来事を話した
社長で金持ち...まるで自分の事のように自慢気に語っていた
「ちょっと思い知らせてやりたいよな!マナトの奴」
仲間の1人からそう振られた樹は少し考えこんだふりをしながら腕を組む
「樹さんっ!!どうにかしてやりましょうよ」
仲間達はいきり立ち、樹に同意を求めてくる
同じ境遇の元に集められた輪は1人欠けるだけで途端に歪んで崩れていく
そうしているうちにいつの間にか信号は青へと変わり、車はゆっくりと動きだした
「ねぇ、とりあえずちょっとこの辺回ってみてくんない?」
樹は運転席に手をかけて乗り出すように顔を出した
「え?どうしたんですか?突然...」
唐突な樹の申し出に運転席の男は慌ててウィンカーを倒し行き先を変えた
「やぁ、もしかしたらね....おこぼれぐらいもらえるかなって思ってさ」
クスクスと不気味に笑う樹を乗せた車はオフィス街の奥へと進んで行った
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