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時計の針は正午を示していた 午前中の仕事を終えた椎名が一息つくとそれを見はからうようにマナトとユウが口を揃える 「先生!腹減ったぁっ!!」 「...へったぁあー!!」 マナトの生意気な口調はいつの間にかユウにも移ってしまっている 今や2人一緒になって掛かって来られてはさすがの椎名もひとたまりもない ランチタイムが少しでも押そうものなら幼子のように大騒ぎだ 「分かった、分かった!今日は何にする?ワゴンのお弁当屋さんが来る日だから公園にでも行こうか?」 今日はちょうどフードワゴンが訪れる そこの弁当は割と評判も良くこの付近のオフィスで働く者なら一度は食べている事だろう 天気も良く気候も最適な今日はそれを持って公園でランチというのも悪くない 「こうえん!?」 そのフレーズだけでお出かけが大好きなユウは大喜びだ 「やったね!あそこの弁当上手いんだよな!」 マナトも賛成したところで今日のランチは満場一致で公園に決まった 「よし!じゃあ涼介の所にコレ持って行こうか!」 資料をまとめて早々に医務室を出ようとするとマナトが思い出したように声をあげた 「あっ!じゃあ俺すぐそこのコンビニに寄ってからでいい?買いたいものがあるんだ」 マナトの言うコンビニはオフィスのすぐ裏にある 椎名達が資料を渡しに行っている間にマナトが行けば終わった頃にはタイミングよく公園に集まれるだろう 「分かった。じゃああとでね」 椎名は了承して急ぐように駆けて行くマナトの後ろ姿を見送った 「僕らも行こうか」 「うん!」 しっかりと手を繋ぎ、涼介の元へ行く途中、ユウはルンルンと浮き足立っている よっぽど公園へ行くのが楽しみのようだ エレベーターに乗り、最上階へ 社長室にいる彼の元へ訪れると丁度仕事がひと段落ついたのかタバコを片手に一息ついていた 目頭を抑えていた彼は椎名とユウの姿を見ると片手をあげ快く2人を迎え入れる 「丁度良かった、これ今日の分」 椎名はいつものように涼介に資料を渡すと彼はすぐさま確認を始めた せっかく丁度いい時間に午前の仕事を終えたのなら少しはゆっくり昼食でもとればいいものの、涼介はいつも仕事優先だ 「これってさあ...」 「え?どれ?」 「ここ、違くね?」 涼介は一枚の資料の小さな文字に眉を潜め指で弾く 「これやり直し、すぐだろ?」 小さなミスも指摘されれば後にしてもらうのは無理そうだ けれど椎名の左手には外出を今か今かと待ち望んでいるユウがぶらさがっている "まだ行かないの?"と大きな目で訴えられてはこちらも後回しにはできそうもない どうしたものかと考え込んでいると椎名はふとある事を思いついてユウに問いかけた 「うーん...そうだなぁ。ユウくん、僕ちょっと涼介とお話しなくちゃダメみたい。どうする?ここで待ってるかそれとも公園に1人で行く?」 「う...?」 ユウを1人で外出させた事はなかったけれど、場所は目と鼻の先にある公園だ 何度も通ったその場所ならユウも迷う事もない 今なら昼時で人通りも多いし、 これなら1人で公園へ行くぐらいなら危険なこともないだろう それにマナトもそろそろ公園に着く頃だろうし、2人なら待っている間も退屈しのぎになる これも1つの勉強だと思えばユウにとっても悪い事ではない 「ユウくんができるって言うなら先に公園で待っててもいいよ?マナトくんもたぶん着いてるだろうし....」 するとユウは椎名の話を最後まで聞くまでもなく大きな声で答えた 「いくっ!ユウっ...できるよぉっ!!」 早く出かけたい気持ちがユウのあちこちから滲み出ているのが分かる 椎名はクスクス笑うとユウの頭を1人なでして頷いた 「よし!じゃあ気をつけて行くんだよ?僕もすぐに行くから」 椎名がそう言うとユウは嬉しそうにして軽やかにその部屋を飛び出していった パタパタと鳴るユウの足音はあっという間に小さくなっていく 「おいおい、大丈夫か?ユウを一人で行かせて.....迷子にでもなったらどうすんだよ」 「大丈夫だよ、すぐそこの公園だよ?いつも行ってる所なんだから」 道なりは単純でユウの足でも5分とかからない むしろ心配のしようがないなどと椎名は笑ってみせた 「さ!早く終わらせないと子供たちがお腹すいたって怒り出すぞ」 椎名は腕を捲ると、急ぐように仕事に取り掛かった

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