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「ゲホッ...ゲェッホ、ゴホッ、ゴホッ..」 赤い胃液を吐きながらユウはミツルから逃れようと床を這っていた 「待ってって、逃げんなよ」 ミツルは笑いながら逃げ惑うユウを部屋の隅に追い詰めていく 「あぁ...うぅぅ」 「逃げられないように肩外しとこうか」 「いぎゃぁぁぁぁぁああ!!」 背中に乗り上げて腕をねじるとゴキンッと音がして腕が崩れ落ちる 泡をふいて目を回すユウの顎を掴んで頬を叩くと瞳が慌てるように戻ってきた 「ぁぅ...」 「なかなか壊れないなぁ...そんなに先生に会いたいの?」 瞳を合わせて聞いてみれば答えはなくてもミツルにはすぐに分かってしまう せんせぇ...?せんせぇ...うん...会いたいの 「なに?その顔...そんなに先生が好き?」 好き...?えっ...と...えっと... 彼以外に対しての"好き"は絶対に許されない 彼の"好き"を得るために他の"好き"を全部諦めてきた ーーだけどあんなに優しくしてくれる人を”嫌い”と言いたくなかった 1人ぼっちの自分 彼がいるのに本当はいつも1人だった まわりには何もなかった だけど椎名が来てから全てが変わった 真っ白だった世界が色づいて毎日が鮮やかになった 彼に怒られても、どこかへお出かけしてしまっても あの人がいたから寂しくなかった 「聞いてんの?好きかって聞いてんだよ」 「ぅ...ぅ...」 ダメだと分かっているのにどうして繰り返してしまうんだろう 頷いてはいけないのに...それをしたらまた嫌われてしまう、今度こそ捨てられてしまうのに... 「うぅ...せんっ..せぇ...せんせぇぇぇ」 ユウはミツルに向って泣きじゃくりながら椎名の名前を叫び続けた 「...っ」 グラリと歪む視界、遠くなっていく意識 消えていく意識の中でユウに聞こえてきたのは彼でもなく椎名の声だった 「待っててね」 せんせぇ...? うん...待ってる...待ってるから...早く帰ってきて? それまで頑張るから...頑張れるから...そしたらまた教えてくれる? 彼やせんせぇのお話がもっと分かるようになりたいの だけど理解できるようになれば、知りたくなかった現実も分かるようになってしまった あのね...せんせぇ 嫌いだって言われたの もう要らないって...ユウはもう要らないんだよ だけど分かったの...本当はそうじゃなくて 本当はもうずっと愛されてなんかなかったの ユウが好きなだけで... 大好きだから愛されていると思いたかっただけなの せんせぇ...怖い 気づいてしまえばくじけてしまいそうで怖い もう頑張れなくなりそうで怖い こんな思いをするなら分からない方が良かったの

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