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多忙な涼介がわざわざ訪ねてくれたのはほかでもない、ユウ君のこれからに必要な手続きに協力をしてくれる人が見つかったという報告だった
涼介に頼んだのはほんの数日前、忙しい中でこれほど早く探してくれた彼はさすがとしか言いようがない
「親身になってくれる奴だから心配ない」はっきりと言い切る涼介の自信に満ちた目を信用できないはずがないだろう
やはり自分のような素人より専門的な知識を持った人のほうが確実で心強い
きっとすべてがいい方向に進むはずだ
自分としてもそろそろ二人の所へ戻ろうと思っていたので、彼らにいい報告ができると思うと安心した
「本当にありがとう、やっぱり頼りになるな」
椎名は涼介に向かって頭を下げると、照れくさそうなにしながら皮肉る声が返ってくる
「お前と違ってな!俺を誰だと思ってんだよ」
「僕と違うってのは余計なんだけどっ!!」
自分とは正反対の涼介だが大人になった今でも付き合いを続けていけるのは彼のそういった面倒見のいいところのおかげでもあると思う
いつも助けられたばかりだな...と自分の不甲斐なさも感じなくはないが
「本当に大丈夫かよ?!蓋を開けたら”みんな死んでました”じゃシャレにならねぇけど」
「だ...大丈夫だよ!あとは必要なものだけそろえたら行くつもり...」
椎名が”大丈夫”といえばいうほど涼介には説得力が欠けていくように見えてますます心配になる
「とにかく連絡はとれるようにしておけよ?もうあんな思いはまっぴらだ」
あんな思いとは...椎名と連絡が取れなかった時期を指している
いくらかけ続けても繋がらない、折り返しもないという状況に涼介はただならぬ不安を感じて過ごしていたのだ
それなのに椎名には「手を引け」と言わず協力してくれる彼に感謝はもちろん申し訳なくも感じていた
「ごめんって...分かってるよ」
涼介はまだ何か言いたげのようだったが椎名の陰るその顔にこれ以上何かを言うのはやめた
腕時計をチラリと見ると「そろそろ出るわ」と身支度を整えて足早に立ち去ろうとする
玄関を出る直前、涼介は椎名に向かって少しだけ顔を強張らせて振り返った
「無理だけはすんなよ?」
「はいはい、分かってるから」
へらへらと笑う椎名の顔にはもはや怒る気も起きない
涼介は椎名の胸にこぶしを軽く当てて自らを納得させるように言った
「まぁ...そのガキにはお前みたいのがいてくれた方が救いになるだろうからな」
ガキとはユウくんのことだろう...そう言った涼介の顔が少しだけ曇ったような気がして椎名は思わずその手を取った
「お前も昔...俺みたいな大人がいたほうが良かった?」
椎名の言葉に涼介はハッとして掴まれた手を軽く交わして眉をひそめた
「俺?俺はそのガキみたいにやわじゃねぇよ」
「あの頃はお前だってガキだったろ?」
同じように軽く笑って返す椎名に向かって涼介は笑った
「俺にはお前がいたからな、すげぇ感謝してる」
「は!!??」
思わぬ告白に椎名はちょっと恥ずかしくなって思わず赤面して後ずさりしてしまった
「なんだその反応、気持ちわりぃな!勘違いすんじゃねぇよ」
「だって改まっていうからっ!やめろよ!恥ずかしい...」
椎名は照れてしまったが涼介は本気で言っていた
それは椎名が幼いころから自分を支えてくれていたから...頼りないなんて皮肉を言ったけれど本心では反対だった
いつでも温厚で冷静で...物事を客観的に見れる椎名を涼介は一目置いているくらいだ
だから今回の話も椎名がやると決めたからにはできる限り協力するつもりだし、むしろこれぐらいでは今までの恩など返せない
「なんだっけ...ガキの名前」
「えっと....ユウくん?」
涼介は少し考えるそぶりをして椎名に真正面から向き合う
「昔、俺にしてくれたようにユウの力になってやれよ」
それだけ言うと軽く手を挙げて足早にアパートの階段を下りて行った
その背中は彼がどれだけ忙しい中、会いに来てくれていたのか分かる
涼介の背中が見えなくなるまで見送った椎名は思いがけない彼の言葉を胸に力強く拳を握った
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