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ほら...やっぱり...欲しかったものを取り戻せると心がちょっとだけ元気になった まるで抱きしめたぬいぐるみに語り掛けるようにユウの心は動き出した ヨロヨロしながら棚に手をついてガラスの破片の上に立ちあがって部屋を見渡した 行かなくちゃ...どこでもいいから行かなくちゃ...彼が戻ってくる前に...また取り上げられてしまう前に... 「...っ」 足が痛くて思うように動けない それでもユウは壁を伝って足を進める ーーーどこへ行けばいいんだろう...自分にはここから出ることも誰かに救いを求めることもできはしないのに 「ポチ」 どこからかまた声が聞こえた気がする...変だなぁ...とりさんもわんわんも全部腕の中にあるのに... 「ポチ」 ねぇ...だぁれ?...どこにいるの...? ユウは姿のない声の主を探してあたりを見渡しながらフラフラと部屋をさまよっていた 誰でもいいの...誰でもいいから...どこか遠くへ連れて行って.... ふらつく足でたどり着いたのは寝室 ドアノブに手をかけると疲労したユウには辛すぎるほど扉が重く感じた ゆっくり扉を開けるとそこに広がるのは懐かしい景色 グレーのシーツがきれいに整えられたベッド、小さなナイトテーブル...あの上の小物入れには彼の大事なものが入っているんだっけ... 彼は小物入れの中の小さなガラスの瓶に自分の剥がした爪を入れて「宝物だよ」と言ったのだ 瓶を揺らしてカラカラと音をさせながらニッコリ微笑む彼を見てうれしくなったの 頑張って良かったと思えた...彼に喜んでもらえたから ベットの横にぺたりと座り込んでシーツに顔をうずめると当たり前のように彼の甘い匂いがした ここに来たかった...手を引いてここに来てまた一緒に寝てもらえる日を夢見ていた 諦めかけて、途切れるはずだった気持ちはここに来たことによってまた姿を現した ここには彼との楽しい思い出がたくさんある ふわりと香り立つ彼の匂いみたいに甘い気持ちが蘇ってしまう ユウはボロボロの手でシーツを捲りその間に頭を突っ込んでベットに乗り上げた シーツの波を泳ぐように深く奥へと潜り込んで体を小さく畳んで息を潜める 「逃げてんじゃねぇよ」 今度は頭の中に彼の怒った声が響いた 彼が戻ってきたらこんな自分を見てなんていうのだろう...きっと床に点々と付けた血の跡を辿ってすぐに見つかってしまう 「お前、何逃げてんだよ」そう言いながら拳を振り上げる姿が目に浮かぶ ちがう...ちがう...逃げるんじゃなくて... ユウはさらに体を縮めて膝を抱えながら祈るように目を閉じた もっと深い奥の方にどうか自分を隠してほしい...彼が戻るその時までほんの少し心を休める時間が欲しい 部屋は割れたガラスで散々にして、ベッドも勝手に乗って汚してしまった 怒られる理由は十分すぎてユウの足りない頭でもこの後に何が起きるかなんて想像するのは容易かった 言いつけを守れない悪い子のポチ 彼のために何でもしたいと思うのに”壊れる”ことだけは拒んでしまった だって壊れることは何もかも忘れることだから...今抱きしめているぬいぐるみも教えてもらった言葉もプリンも窓から見える”キレイ”も...そして大好きな彼のことも どうせ怒られるなら全部抱きしめて怒られよう...それとも今度は壊れなかったことを怒られてしまうのだろうか... そしたら今度こそ頑張って....頑張って頑張って言葉にするの 「大好きでごめんなさい」 体を隠すようにすっぽりと覆ったベットの中は薄暗く、はぁ...と一息つくとユウはあっという間に眠りに落ちていった

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