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ーーユウは不思議な夢を見ていた
どこかも知らない所をたった1人でフラフラと歩いている
痛かった身体はまるで羽根が生えたように軽くて今なら空も飛べそうだ
ふと見上げた向こうに大きくてキラキラと七色の光を放つ虹が見える
その輝きに目を奪われて勝手に足がそちらへ向いた
つと腕を掴まれる感覚にユウは振り返る
「行っちゃだめ」
そう言って制するのは見覚えのない男の子
「そっちはだめだよ」
先を阻まれたユウは怪訝そうな顔でその子を見つめる
「う...?」
どうして?あんなにキレイなのに
「あっちに大好きな人はいないよ?」
大好きな人...?
「彼にもう会えなくてもいいの?」
ユウは唇を噛んで俯いた
裸足の足をもじもじとさせて言葉にできない気持ちが焦れていく
そうか...あっちに行くと会えなくなるの...
「ね?だからあっちはダメ」
でもじゃあどこへ行けばいいんだろう
彼に突き放された自分には居場所がないのに
男の子はふふっと笑うとユウに向かって手を伸ばす
「大丈夫だよ!彼はポチの事嫌いになんかならないよ」
その手がユウの髪に触れてふわふわと頭を撫でた
「ポチはとってもいい子だから大丈夫」
いい子...?どうして?
そんなわけはない
だって知っているのだ
自分がどれだけ悪い子なのかを
それは彼に言われたのにからでもなく、自分自身でも思うのだ
どうしてこんなにバカでなにもできなくて彼の望むようにできないんだろうと...
それなのにどうしていい子なんて言ってくれるの?
「だってずーっと見てたから、ポチは頑張り屋さんのいい子だよ」
手を握ったまま腕を左右に揺らして男の子は無邪気に笑った
ずっと...どういう意味?
「もう我慢しなくていいんだよ?」
ガマン?
だってそうしないと嫌われちゃう
ちゃんとしないと、できないと...いい子じゃなきゃ好きにはなってもらえない
「ポチはそのままでいいんだよ」
そのまま...?
「本当の事、言ってもいいんだよ?」
ほんとうのこと...?
言ってはだめ、思ってはだめ
なにかを望むことは自分には許されていないのだから
だけど本当は...
本当はね
ずっと優しくして欲しかった、そばにいて欲しかった
分かって欲しかった
「みつるくん」て呼べるまで待ってほしかった
だって好きなんだもん...大好きだから
みつるくん すき
大きな声で言いたかった
いっぱい教えてもらったの、いっぱい頑張ったんだよ
でも...でもごめんなさい
ポチはバカだからいくらやっても、ちっとも上手にならなくて
いい子になれなくて、ちゃんとできなくて、お名前を言えなくてごめんなさい
でも
みつるくん すき
この気持ちだけは許してね
ーーいつの間にか目からは涙が溢れていた
「ひっく...ふっ...」
「大丈夫だよ!ポチの気持ち、絶対分かってくれるよ!!」
ほんと?
いつの間にか泣きじゃくるユウの背中をさすりながら男の子は落ち着くように促してくれている
「絶対大丈夫!!僕を信じて」
どうして分かるの?
すると男の子は満面の笑みでこう言った
「だってあのお兄ちゃんは本当はすっごく優しくてポチの事が大好きなんだから!」
その笑顔はどこか懐かしくて胸がキュッと感じる
どうしてこんなこと思うんだろう
彼とせんせぇ以外知らないはずなのに...
なんだかずっと昔にこんな風に優しくしてもらったことがあったような気がする
ユウは男の子の顔をじぃっと見つめて眉を寄せる
ねぇ...だぁれ?
「.....。」
男の子は笑顔で唇を動かした
けれどその声はユウの耳には届かなかった...
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