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目覚めの時

**** ピンポーンーーーピンポーンーーー 椎名がいくらインターホンを鳴らしても応答がない 拳でドアを叩きながら中から返事が来るのを焦る気持ちで待ち続けていた ーーミツルから電話を受け取った時、椎名は丁度、これから必要なものを荷造りをしていた真っ最中だった それは主にユウに必要な生活力を高めるようなもので絵本や知育のものが多かった あれもこれもとユウの喜ぶ顔を想像しながら選んでいると思わず口元が緩む 自分の子供なわけでもないのにまるで親バカのようになってしまう自分に呆れるくらいだった そんな時、ポケットの中の携帯がふるえながら着信を告げた ディスプレイに表示された彼の名前 椎名が家を離れてから初めてのことだった 椎名は慌てるように通話ボタンを押して受話器を耳に押し当てた 「もしもし?ミツルくん?!どうした」 「......」 電話の向こうは終始無言で何も聞こえない 何かあったら連絡するように言ってはいたものの、これまで何の音沙汰もなく始めの頃の心配も薄れて来ていた ここに来ての電話は背筋をスッと凍りつかせ嫌な予感を起こさせた 「もしもし?ミツルくん?」 何度か呼びかけた後、やっと受話器の向こうから消え入りそうな彼の声が聞こえた 「先生...ユウを助けて」 その後、椎名はすぐにまとめた荷物を引っ掴んで自宅を飛び出した 走って大通りまで出るとタクシーを捕まえて彼のマンションまで急いだのだった ーー それなのにどれだけ鳴らしても彼は出てこない 焦れるようにドアノブに手を掛けると鍵が開いてある事に今更気づいた 「ミツルくん?!入るよ!!」 一声かけると無造作に、靴を脱ぎバタバタと上がり込む 真っ直ぐにリビングに向かっても2人の姿はなく電気一つ付いていない部屋は真っ暗だった 壁のスイッチで明かりをつけると異様な部屋の状態が明らかになった 殺伐とした空気が流れ、床にはガラスの破片が散らばっている 「なっ...どうしたんだ!?一体」 踏まないように恐る恐る近づくと床に点々と残る血の跡を見つけた そして椎名は導かれるように寝室のドアを開ける そこにはベットのそばに置かれたナイトテーブルの上のライトがぼんやりと2人の姿を浮かび上がらせていた 「ユウくん!!」 声を上げて近づこうとする椎名を制するように彼の声が響く 「大きい声出さないで?ユウ、寝てるから」 その声に思わず一歩足を引いてしまった椎名だが、薄明かりの下の少年に目を凝らして愕然とした 腫れ上がった顔はあざだらけで大きなガーゼを頬に貼り、彼が大事そうに握った手は包帯がぐるぐると巻きつけてあった

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