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樹がユウを目の前にして思ったことは”この子、ずいぶん幼いな”ということだった
一度会っただけ...というより"見た"というほうが正しいのにこんなにもいとも容易く自分を信用している
”まるで幼稚園児みたいなやつ”
あの日のマナトは嫌悪たっぷりにユウのことをそう言っていた
けれどこちらとすればそのほうが好都合だ
幼いなら簡単にマナトの居場所も聞きだすことができる
もしかするともっと詳しい情報だって聞きだせるかもしれない
そう考えた樹はベンチに座るとユウを手招きして隣に座らせた
案の定ユウは警戒することなく隣に座り樹に向かってニコニコしている
「ユウくんさ、俺マナトのこと探してるんだけどどこにいるか知らない?」
「マナくん?」
ユウは人差し指を顎につけて少し考えこむとそのまま公園の入り口を指差した
「マナくん、もうすぐ来るの。今日は公園でおべんとお....食べるんだよ」
「弁当?ふーん...そうなんだ、それはユウくんと二人?マナトの彼氏は一緒じゃないの?」
「かれ...し?」
”彼氏”という言葉はユウにはまだ理解できなかったらしい
樹はもっと簡単な言い回しを考えながら身振り手振りを加えていく
「恋人って分かる?あぁ....えっと...そうだ、マナトって今誰と一緒に住んでるか分かったりする?」
ユウは"それなら分かる!"と顔を明るくして勢いづいた
「りょおくんだ!!」
「りょおくん?それ誰?どんな人?」
「りょおくんはねぇ....えっと...おっきくてねっ!すごぉぉくかっこいいんだよ!!」
「そうじゃなくさぁ....うーんと...家とか会社とか分かる?」
ユウの的を得ない答えにだんだん樹も焦れはじめていた
早くしないといつマナトがここへ現れるか分からない
後の事はいろいろと聞き出してからゆっくりと考えたい
樹はそう思っていた
裏切り者への制裁はできるだけ確実に心さえ壊すほどのものがいい
ーーそれにしても本当にこの子は幼いな
話すことといい仕草といい、少しというか...だいぶ幼く感じる
おまけに小柄で色白でまるで女の子のような容姿、それに加えてこれだけ人懐っこくては周りはさぞ心配だろう
マナトが端々に嫉妬を露わにするくらい周りはこの子にかかりっきりに違いない
「ねぇ、ユウくん、お願いがあるんだけど」
樹は急に真剣な表情でユウを見据えた
「俺、マナトの事喜ばせてあげたいんだけど協力してくれない?」
「きょおりょく?」
「今から俺と一緒に来てほしいんだ!!いいでしょ?ね?」
樹からの急な申し出にユウは驚いて目をぱちくりさせた
だって今からここでユウは椎名とマナトとお昼を取るはずなのだ
勝手に出かけていいはずがない
「でも....」
言い淀むユウに樹は畳みかけるように迫った
「いいじゃん、ユウくんはマナトの友達なんでしょ?俺もマナトの友達だから、じゃあ俺とユウくんも友達じゃん」
「ともだち?」
それはユウにとって覚えたばかりの新しい宝物だ
誰もいなかった自分にマナトという友達が出来た時、
その存在はまさしく絵本で見るような楽しくて嬉しいものだった
「一緒にマナトのことびっくりさせて喜ばせてあげようよ」
「マナくん...喜ぶの?」
ふと聞き返したユウに樹はニコリと笑って大げさに手を広げた
「もちろんだよ!とーっても喜ぶよ」
そうか...喜ぶのか....
ユウはうんうんと頷くと樹の話を頭の中で自分なりに解釈する
知らない人についていくのはダメ
それはせんせぇに教えてもらった
でもこの人は知らない人じゃないよ
会った事あるの
マナくんのおともだち
それに大好きな人を喜ばせるのはとってもいい事だ
マナくんはユウの大好きで大事なお友達
そうしてユウは自分なりに考えて納得した
これは悪い事ではなくいい事なのだと信じて疑わなかった
差し伸べられた樹の手を遠慮がちに握るとそれは力強く握り返された
「ありがとう!じゃあ行こうか」
人を疑うことを知らないユウは何の疑問も持たずに樹に連れられるように公園を後にした
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