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傷だらけの天使

車の中は真っ暗で、タバコの匂いが充満していた 窓には全てスモークが張られ、その上から真っ暗のカーテンがかかっている そのおかげで周りを見る事ができなかったユウにはこの車がどれほど遠く来てしまったのかを計り知ることは出来なかった 「どこ...いくの?」 車には他に男が2人乗っていて、時たまユウを振り返っては手を振ったりしてくれるのにユウの質問には誰も答えてくれない それでも何かを相談するようにボソボソと話す声や樹が前の2人に耳打ちをする仕草にユウはなんだか居心地の悪さを感じた なんだか異様な雰囲気に不安が徐々に募っていく マナくん...はやく来ないかな... 樹達がなにをするのかは分からないがそれはマナトがとても喜ぶ事だと言っていた ならせめて一緒に車に乗れば良かったとユウは今更ながら思った 本当なら今頃お昼を食べていたはずなのに.... 「ユウくん、あーんして?」 「あ...?」 俯いていたユウは樹の言葉に反射的に口を開けた すると彼はおもむろにその口の中に何かを放り込む 「アメ玉だよ。これすっごく美味しいんだよ」 いわれるがまま舌先でそれを転がすと口の中には甘く蕩けるような蜜の味が広がった 「うんっ!!うんっ!おぃひい!」 その甘い味はどこか不安だったユウの気持ちを落ち着かせてくれた 「そう!良かった!もうすぐだから待っててね」 ーー暫く走り続けて、ユウの口の中のアメが消えて無くなった頃、ようやく車は停車した 「着いたよ。降りようか」 先に運転席から降りた男が後部座席のドアを勢いよく開いた するとそこから見えたのは錆びついた古い大きな建物 そこは今までユウが見た事もなければ来たこともない場所だった 「びっくりした?ここね、知り合いの使わなくなった古倉庫なんだよ」 その光景にぽかんとしているユウに樹はそう言うとぐっと手を掴んで身体を引き寄せた 「ここなら誰も来ないし大きな声出しても誰にも聞こえないんだよ」 その時初めてユウは樹に対してゾクリと背筋が凍るのを感じた 「あのっ...」 なんだかさっきまで優しかったはずの樹が急に別人に思える その笑顔も声色も、優しく掴んでいるその手さえもまるで氷のように冷たく感じるのは気のせいだろうか 「どうかした?ほら、早く降りて」 樹に引っ張られるように車から降りたユウは足を地面につけた瞬間、ガクンと崩れて座り込んでしまった 座り込んだというより足に力が入らない まるで痺れたように感覚がなくなって動けなくなった なに...これ.... 突然の事に呆然とするユウの目線の先ににじり寄る樹の足先が見える 「あぁ、ユウくんは身体が小さいからちょっと効きすぎちゃったかもしれないね」 見上げたユウを樹は最初に会った時と同じ笑顔で見下ろしていた

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