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倉庫の中は薄暗く、日が当たらないせいかカビ臭い匂いが鼻についた 錆びて剥がれた外壁の塗装や壊れたままになった作業車があるだけで、日が沈めば、辺り一帯は完全に闇へと化すであろうその場所は逃げる事など到底できない 樹達は車からユウを抱えて中へと連れ込むと辺りを警戒しながら倉庫の扉に鍵をかけた 「いいね、その顔、唆られる」 樹は唇を引き上げながらポケットから携帯を取り出しそれを翳した 液晶はカメラモードに代わりそこには地べたに座り込んだまま息苦しそうに胸をおさえているユウの姿が映る 「俺たちさ、たまに動画撮って稼いだりしてるんだよね。ユウくんすっごくかわいいから結構、アクセス稼げると思うんだ」 そう言って次に樹の指が触れたのはカメラの動画機能だった これで今から起こる事の全てをここに記録することができる 本来ならもっとちゃんとした撮影機材があれば良かったのだが今回は急な事だったから仕方ない 最近の携帯は驚くほど画質の精度が高くこれでも充分なものが撮れるだろう 画面に赤いランプがつき、小さな文字で秒数が刻まれ始めると樹はユウを見下ろしながら目を細めた 「これ、凄いでしょ。結構効くって評判なんだ」 ふいに樹の指がユウの輪郭をなぞるとそれは想像以上に反応を示した 樹がユウに与えた飴玉は最近密かに流行っている興奮剤のようなもので、その効果は今出回っているものの中で群を抜いてると評判だった けれどそれは成人に対しての効果であり、子供のように小さなユウにはその効き目以上の効果が表れ始めていた ドクンードクンーと鼓動の脈打つ音が聞こえる まるで心臓が今にも飛び出そうとしているみたいだ 「はっ...はぁ...」 息をするたびに胸が苦しくて頭がクラクラする 声を出そうにも舌まで痺れて呂律が回らない ユウはまるで自分の身体が別物のような感覚にただ狼狽えるばかりだった 隣には男が2人、ユウが万が一にも逃げ出さないように完全に包囲している 身体も言うことを聞かない今、ユウに出来ることなど何一つなかった 「樹さん!そろそろ始めていい?」 頃合いを見計らった男の1人が声を上げると、2人同時にユウの洋服を脱がせようと手をかける 「やっ...ぁ...らめっ」 力のない腕でユウは必死に脱がされまいと両手を交差させて抵抗した 「かわいー、それで抵抗しているつもり?」 ユウの無駄な抵抗は大の男に敵うはずもなく、身につけていた衣類はあっという間に剥がされていく 「やなのっ....」 だめ...絶対だめ... ユウは泣きそうになりながら身体を折り曲げた 身体を見せてはだめ 触らせてはだめ それはまた1つ交わしてもらった約束だから 何を引き換えにしても絶対に守らなければならないものだ すると強情にも石のように縮こまるユウに1人の男がキレたように怒鳴り散らした 「あー、面倒くせぇ!!このガキ、いい加減にしろよっ!!」 そして力任せに引っ張り、無理やり仰向けにするとそのままユウの上に馬乗りになった 「やぁあっ!!」 悲鳴を上げるユウに男は容赦なく拳を振り下ろした 骨がぶつかる音は何もない倉庫内に轟き、ユウの泣き叫ぶ声だけが虚しく響く 「あーぁ、あんまり傷つけんなよ?」 樹はその行為を咎めるどころか笑いながら撮影を続けていた ここにはユウの声を聞いてくれるものも、助けてくれるものも誰1人いない ひとしきり殴り終えた男が手首を回しながら唇を舐めた 「これで大人しくなるだろ?」 ぐったりと床に転がるユウにはこれ以上抵抗する事など出来なかった 頭がガンガン痛み、口の中は血の味が広がる 腫れ上がっていく目元は周りを霞ませ、これが現実なのか分からなくなってくる 「ごめんね。恨むんならマナトを恨んで?」 "マナト" ふと樹から聞こえたその名前にユウはぴくりと反応した そうだマナくん...マナくんはどこ? こんなはずではなかった "マナトを喜ばせる"それだけだったはずなのに いつも椎名達に守られ安全な中で生活していたユウにとって他人がこんな風に自分を傷つけるものだったとは思いもしなかった 嘘をついたり騙したりそんな人がいるなんて知らなかった 「大人しくしてればすぐに終わるから。でないともっと痛い目に合うよ?それでもいい?」 樹は靴の先で仰向けのまま動かないユウを小突く 「うぁ...」 「ちょっと我慢してくれればいいからさ」 "ガマン" その言葉はこの恐ろしい状況の中で見出した希望のような気がした ガマンすればもうおわるの...? おうちに帰れるの...? 「いたいの...や」 虚ろな目で樹を見上げたユウは小さな声で呟いた ガマンは得意なことだから 何も出来ない自分に唯一できることだから この状況下でユウにできる事はそれしかなった 例えそれが、彼との約束を破る事だとしてもーー

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