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椎名が廊下に出るとこちらに向かってくるミツルが見えた
彼は椎名の姿を捉えるとすぐに走り寄って来る
「先生っ!!ユウは!?」
ミツルは椎名の腕を掴むと揺さぶるように詰め寄った
いつも冷静で乱れる事のないミツルだがユウの事となると話は別だ
急いでここへ向かったのだろう肩で息をしながら震えている
「ユウはどこ!?ケガしてるって...大丈夫なの?!」
「ミツルくんっ!!落ち着いて...」
あれを果たして"大丈夫"とゆうべきか
興奮状態のミツルに今すぐにユウを会わせるのは酷な気がして椎名は言い淀む
するとそれを感じ取ったのかミツルは椎名を押しのけるようにして病室へと飛び込んで行った
「ミツルくん!!」
椎名の呼ぶ声も無視して部屋に入ったミツルはそこで変わり果てたユウの姿に絶句した
「なに....これ...」
まともに見られる所がないほど傷だらけの姿は非現実的すぎて実感が湧かない
「なんで....」
立ち尽くしたまま思わず呟くミツルに誰も返事などできはしなかった
椎名は意を決して自らの過ちを詫びようとミツルに近づく
肩に触れ声をかけようとした瞬間、ミツルは椎名が何かを言うよりも早く摑みかかった
「....っ!!」
「なんでっ....先生!!なにやってたんだよ!!」
胸ぐらを掴んだミツルは感情的に声を荒げて椎名を責め立てる
「俺、言ったじゃん!!ちゃんと見ててって!ユウの事、ちゃんと見ててねって!!なのにっ....先生が側にいて何でこんな事になるんだよっ!!」
悔しそうに目尻を滲ませて訴える悲痛な叫びを椎名はただ聞くことしかできなかった
「ごめん...本当にごめん」
「やめろって!マサキのせいじゃないだろっ!!」
酷く興奮状態のミツルを見兼ねた涼介が2人の間に割って入る
放っておけばミツルは今にも椎名に手を上げそうだった
「....っ」
涼介が力ずくで2人を引き離すとミツルは吐き出す事のできない怒りを噛み締める
ミツル自身も本当は分かっている
ユウを連れ去ったのも怪我をさせたのも"無関係の誰か"であり、椎名ではない
この3年でたくさんの事を覚え、外に憧れをもつユウがいつのまにか椎名の目の届かない所へ迷い込んでしまうなんてあり得ない事ではない
それに本来、椎名にはユウの面倒を見る義理もないのだ
それなのに無条件でユウを引き取り、言葉を教え、社会性を身につけさせるために奮闘してくれている
何も分からず無防備なユウに危険を回避する能力がないのは当然で、それでも身につけさせようと努力していた矢先に今回の事件が起こった
全てを任せっきりにしていた事に感謝こそすれど責めるなど筋違いもいいところだ
自分は側にいて守ってやることすらできないくせに
そして側にいられなくなったのはユウを動物同然に扱っていた自分のせいなのに
ーーだけどこんなユウを目の当たりにしては考えずにはいられない
どうしてこんな事になったんだろう
こんな目に合わせるために手放したわけではない
ユウを誰かに傷つけられるくらいならずっとずっと閉じ込めておけば良かった
「連れて帰る」
ミツルは思い立ったようにそう言うと横たわるユウを無理やり起こして抱き上げようとする
「ちょっ...なに言ってるの!!そんな事出来るわけないでしょう?!」
「バカ野郎!!少しは落ち着けっ!!」
慌てて止めに入る2人にミツルはまるで聞く耳をもたない
憎らしげに睨みつけると敵意を剥き出しに大声をあげた
「触るな!!!」
まるで腕の中に閉じ込めるようにユウを抱きしめて誰も近づかせないように威圧してみせる
「誰も触るな!!...俺のユウに触るな!!!」
ミツルはまだ目覚める気配のないユウに頬ズリをしてピタリと身体を這わせると片時も離れようとしなかった
いつ目覚めてもいいように
怖い目にあったユウがもう怯えなくてもいいように
ユウが一番最初に見るの自分であるように
潤んでいた瞳からはいつのまにか涙が溢れ、ユウの頬を濡らしていく
「....ユウっ」
肩を震わせるミツルに椎名も涼介もかける言葉が見つからなかった
傷ついたのはユウだけではなく
ミツルもまたユウと同じくらい深い傷を負ってしまった
「マサキ、とりあえずミツルが落ち着くまで2人にしてやろう....」
涼介はそっと耳打ちするとミツルのために椎名を病室から連れ出した
椎名達にはただ早くユウが目覚めるのを祈るしかなかった
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