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ソファに腰かけた涼介は怒るわけでも怒鳴るわけでもなくただ静かにマナトの話を聞いていた
犯人は自分の仲間で主犯はおそらく「樹」である事
ユウの事は前に一度だけ、一緒にいる時に偶然出くわした事があった
きっと彼はその時のことを覚えていたにちがいない
樹は頭も良く物知りで、人当たりだっていい
そんな人間ならユウを言いくるめて連れ去るなんて造作もなかったはずだ
あの頃の自分はユウとこんな関係になるなんて思いもしなかった
だから樹にはベラベラと饒舌にユウの事を語って聞かせたのだ
「あいつはバカで何も出来ない奴だ」
それを聞いた樹がどんな事を企むかも考えもせずに....
「それで...?」
沈黙の中、不意に投げられた言葉は煙草を片手に吐き出した涼介の長い息と共にマナトの前をゆっくりと流れて消えていった
「お前はそれでどうすんの?」
どうする...どうしたらいいんだろう
マナトには謝っても消えない傷を償う方法なんて分からない
少ない知恵で考え出した答えは一つだけだった
「俺...あいつらの所に行く、それで....ムカつくなら俺をやれって言う、もう2度と涼介達には迷惑かけないからっ...だからっ...」
これで最後だ
もう2度とここに来ることはない
散々迷惑をかけた自分が唯一できる事はこの縁を断ち切る事だ
マナトが言い終えると涼介はまだ長さの残るタバコを灰皿に押し当て、立ち上がった
ビクリと身体を強張らせるマナトに涼介が歩み寄る
聞こえる足音はどこか批難にも似て、流れる空気は凍てつくように冷たかった
俯いた自分の前に涼介の気配を感じると殴られることも覚悟の上でマナトはぎゅっと目を瞑った
「...っ!!」
ーーけれど歯を食いしばるマナトが次に感じたのは刺さるような言葉でも殴られる痛みでもなく、包むような人の体温と鼻を掠めるタバコの匂い
「....?」
そしてうっすらと開けた目に飛び込んで見えたのは涼介の着ていたシャツの色
「お前はそれでいいの?」
まるで心を撫でるような声に顔を上げるとマナトはいつのまにか涼介の腕の中にいることに気がついた
「俺たちはお前がどれだけ努力して変わろうとしていたのか知ってる。なのにそれを捨てるのか?また前みたいな生活に戻るのか?それは本当にお前が望んでる事なのかよ」
心を見透かすように確実に核心を攻めてくる涼介にマナトは言葉を詰まらせた
望んでるわけない
捨てられるわけがない
だけど俺にこの先どんな道があるっていうの?
最後の居場所すら失った俺はどこに行くのが正しいの?
「それともなにか?俺たちがお前を信じていただけで本当はまだ手を切れてなかった?今回の事を仕組んだのはお前なのか?!」
涼介の言葉にマナトは初めて声を荒げて反論した
「違う!!そんな事するわけない!!」
咄嗟に涼介の胸元を掴んだマナトの手は悔しそうに震えていた
そんな事をするはずがないのだ
マナトは涼介達と約束して、自分自身にも誓ったのだ
こんな惨めな生活はやめたい
今までの自分から変わりたい
だから樹達と連絡を取るのを止め、涼介の側にいる事を選んだ
ここが自分の居場所だと思ったから
そう思いたかったから....
だけどその結果傷ついたのは自分ではなくユウだった
それを思うと辛すぎてマナトの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた
「だってっ...全部俺のせいだった!!俺がいなかったらっ...ユウはっ...ユウがっ...」
一度溢れてしまった涙は堰を切ったように止まらない
ユウ...ごめん
本当にごめんな
俺のせいで...傷つけてごめん
いくつ言葉を並べてもユウの受けた傷を消し去ることはできない
「どうしたらいいんだよっ...もうっ...分かんないよっ...」
マナトは無意識に涼介にしがみつくと大声をあげて泣き崩れた
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