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ミツルは嬉しそうに笑うユウの頬を両手で包みこんだ
すると、口角が横いっぱいに広がっていたのがスッと元に戻って怪訝な顔に変わる
「う...?」
「ユウ、あのね...」
ミツルはそのまま頬に当てた手を上に移動させて耳を塞いだ
聴覚が遮断されたユウは彼の真意を読み取ろうと瞳をきょろきょろさせている
「あのね...」
「...?」
ミツルは自分の声が聞こえていないかを確認すると、耳を塞いだまま語りかけた
「俺...本当はね」
ーー聞こえない今だけ言わせてほしい
絶対に聞かせたくない本音を、自分勝手で理不尽でどうしようもない本音を言わせてほしい
「離れたくないよ、一緒にいたいんだ」
本当は今すぐにでも連れ去って逃げてしまいたい
「俺のそばにいて?どこにも行かないで」
「...?」
「ユウがいないと俺、ダメなんだよ」
離れるのが怖い
このまま心も離れていくのが怖い
ユウを手放す事が胸を引き裂かれるほど辛い
だけど...俺はいつもユウから好きなものを取り上げてきた
ユウはずっとこんな気持ちだったんだね
俺はユウにこんな思いをさせてきたんだね
ごめんね ユウ
本当にごめんね
今更、何を言っても償える事なんてできないほど俺のしたことは大きくて重くて真っ暗だ
だからユウに言える事は一つだけ
この言葉にたくさんの"ごめん"を詰めて贈らせてほしい
ミツルはユウの耳から手を外して、そこへ唇を寄せた
首筋から香る匂い、唇に当たる耳朶の感触
明日から感じる事ができない”ユウ”そのもの
「ユウ...」
「...みぃ...くん?」
「愛してるよ」
愛してる
愛してるよ...愛してるから許してね
そっと耳から唇を離してユウの顔を覗いてみる
その言葉の意味を知らないユウはきょとんとしたまま彼を見上げたままだった
分からなくていい
その方がユウにとっては幸せに違いない
だけど、もしこの先この言葉の意味を理解する事があるなら、指輪よりも価値のあるものだと思ってくれるとうれしいな
ーーこれでいい...これが何一つユウのためにできなかった俺の唯一の正しい選択だ
「さぁ、先生の所に戻ろうか」
ミツルは気を取り直すと立ち上がり、ユウに手を差し伸べた
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