2 / 32

第1話

少し冷たい空気に、小気味好く響く三度の音。 「はい、どうぞ」 部屋の住人の返事を聞き、秋月一路(あきづき いちろ)はその重そうな扉を開けた。 眩しいすぎる部屋に目を細めつつ中へ入る。 大きな窓の前にある机と椅子の一式が2セット。 その片方に座る少年が、秋月の方を振り向く。 秋月はその美しさに一瞬息を飲んだ。 しかし、彼の放つ雰囲気は同年代、いやそれよりも幾分か幼いものであった。 秋月は彼のテリトリーに足を踏み入れた。 「初めまして。俺の名前は、秋月一路。よろしくお願いします」 秋月は自己紹介とともに、椅子に座る美少年に手を出した。 美少年は、少し困惑気味に秋月を見上げ、秋月の顔を確認して視線を落とし、差し出された手を見た。 「……」 反応のない美少年に、手を引っ込めようとした秋月だったが、いきなり立ち上がった彼にその手を取られた。 「壬生司」 壬生は、少し驚いている秋月を気にする事なく続けた。 「壬生司です。秋月君は高等部からここですよね。分からない事があれば言って下さい。あとで、寮内も案内します」 そして、秋月の手を再度握り直し、 「ルームメイト、よろしくお願いします」 と柔らかく微笑んだ。

ともだちにシェアしよう!