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第2話

「では、この部屋の説明をしますね」 そう言うと、壬生は握手を外し、部屋の説明を始めた。 「作りは、対になってます。勉強用の机、ベット、クローゼット。バスルームは入り口入って右手側。左側は物置になってます。共有の物を置くのに利用する人が多いです。それから…」 少し早口ではあったが、壬生は終始笑顔で室内の説明をした。 「あと、秋月君の荷物ですが」 「苗字じゃなくて、一路でいいよ」 話の腰を折るのは申し訳ないなと思いつつ、美少年ながらも幼い兄弟を思わせる壬生に、秋月も優しい笑顔で、 「あと、同い年なんだから、敬語もナシな」 思った事を口にした。 それを聞いた瞬間、壬生から笑顔が消えた。 代わりに、また困った顔が現れた。 そのあからさまな変化に、秋月はてっきり、 「もしかして、ココって敬語じゃないとダメなのか、な?すみません、知らなくて」 自分がココの規則(ルール)を理解していないと思い、頭を下げた。 すると壬生が、 「ち、違うんです!頭をあげて下さい!」 と慌てて否定し、 「今まで、そういう事を言われた事がなかったもので…。その…どうしたら良いか分からなくて…」 目線を床に落として、ボソボソと喋りはじめた。 「君が…初めてだったんです。私に笑顔で…話しかけてくれたのは。そのうえ、名前で呼んでと言ってくれて…。本当に名前で呼んでよいものか、社交辞令?どう答えるのが正しいのか分からず…」 「…っぷ」 思い詰めたように話す壬生を見て、秋月は思わず笑ってしまった。 秋月の反応にますます下を向く壬生。 それを見て秋月は、 「ごめん、ごめん!笑うつもりはなかったんだ。ただ、そこまで考えなくていいのにと思って。正しいも何も、自分の好きなように答えればいいよ」 と言って、下を向く壬生を笑顔で覗き込んだ。 林檎のような顔をした壬生は、おずおずと顔を上げ、目線を秋月に合わせ、 「じゃぁ…一路、私の事も司って呼んでくれる?」 と不安そうに尋ねた。 「もちろん」 秋月は、壬生を安心させるように、笑って答えた。

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