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第12話

「ウイング・フォレストって企業知ってるか?」 「ああ。化学薬品からIT関連まで手広くしてる大企業だろ」 「そこの御子息が壬生のお坊ちゃまだよ」 「え、マジか!?」 「お前、壬生のお坊ちゃまから実家の事とか聞いてねーの?」 「んー、家族構成ぐらいしか聞いてない。ここにいる生徒って、基本”由緒正しき大金持ち”だろ?そんな深く聞いても、別世界過ぎて分かんねーと思って」 「確かに。ただ、その別世界の中でも、壬生のお坊ちゃまは別格だ」 「別格…」 「ああ、別格だ。壬生家は、長男の(もとき)、長女の(おと)、そしての次男で末っ子の司、の三兄弟」 「歳の離れた兄弟がいるって言ってたな」 「そ。歳が離れていることもあって、家族中から溺愛されている司お坊ちゃまは、この学園でも異例の扱いをされてきた」 「異例の扱い?」 「司お坊ちゃまは初等部からの入学だったが、中等部に上がるまで、執事という名のボディガードが常に1名。あと、入学して2年間は、まだ長男の基様がいたため、授業以外は常に基様が隣りでべったり。寮部屋も、中等部からしか入棟できない特別棟に、初等部から入棟。勿論、最初の2年間は基様と同室で、それ以降ひとり部屋状態。兎に角、大事に大事に扱われてきたわけよ」 「箱入り息子ってことか?」 「そゆこと」 「それで、必然的に周囲が離れていったってことか…」 土師によるひと通りの”壬生のお坊ちゃま解説”を聴いた秋月は、入寮から薄々気づいていた壬生の孤立に、やっと合点がいった。 「まぁ、それもあるが…」 土師は、納得顔の秋月を、ちょいちょいと小さく手招きし、小声でこう言った。 「あくまでも噂なんだが…、壬生のお坊ちゃまに悪戯しようとした生徒が、退学処分を受けて、家ごと葬られたっていう…」 「ハァーーーッ、家ごと葬られる!?」 噂とはいえ、そんな事があるのか!?と驚いた秋月。 その声に、また秋月に対する周囲の視線が強くなる。 「シッ!!声がでけーよ!」 ”何のために小声で話したのか”という顔で秋月を見た後、周囲を一瞥した土師。 その土師の視線を避けるように、教室の生徒達は目を逸らした。 その様子を見て、 「ゴメン、ゴメン!」 つい大声になってしまったことを謝る秋月。 仕方ないなというように”はぁーっ”と溜息をついた土師は、 「あくまでも噂だけどな」 と再度付け加えた。 「さー皆さん、席について下さい」 ちょうどタイミングよく、担任教師が教室へ入ってきた。 「お前の話しぶりだと、ほぼ事実だろ」 自分の席につこうと立ち上がった土師に、秋月は確信めいた口振りで言った。 「一応そこは濁しておくわ」 土師はそう答えると、最初に見せた不適切な笑みを見せて、自分の席へ戻っていった。

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