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第13話

「一路!!」 午前の授業を終え、教科書やノートを片付けていた秋月は、声の主の方を向いた。 そこには、笑顔で手を振る壬生がいた。 それに返すため手を上げようとした秋月は、ハタと朝の土師との会話を思い出し、周囲を見渡した。 クラスメイト達の驚きの顔が目に入る。 あまり目立つ行動はしない方がいいかもしれない。 そう思った秋月は、返そうとした手を引っ込め、急いで壬生の方へ向かった。 「司、声がデカい」 「…一路の席が遠かったから」 「いやいや、怒ったわけじゃないから。ちょっと恥ずかしくて」 怒られたと思ってシュンとなった壬生を見て、秋月は慌てて言い直した。 「司も、大声で呼ばれるの恥ずかしいだろ?」 「…うん」 「さ、早く食堂行こう。ここの食堂のランチ、美味いって評判だから、すげー楽しみだったんだ」 壬生のあまりの落ち込み様に、秋月は努めて明るく話を変えた。 「司は、食堂のランチで何が好き?」 「…ラザニア」 「うわっ、オシャレな食べ物が出るんだな」 「…普通だよ」 食堂までの道中も、なかなか機嫌の直らない壬生に、秋月は、 「なぁ、司」 肩をポンポンと叩いて声をかけた。 それに対し、壬生が振り向こうとした瞬間…、 「何、いち、う…」 秋月の人差し指が壬生の頬に刺さった。 「ぷっ、ははーっ!引っかかった引っかかった!」 「……」 秋月の人差し指に頬を刺されたまま固まる壬生。 「さっきはキツく言ってゴメン。だから、機嫌直して?な?」 秋月は、クスクスと笑いながらも、優しく壬生に謝った。 暫くそのまま黙っていた壬生だったが、 「ううん。私のほうこそ、ごめんなさい。一路とのランチが嬉しくて…、つい、大声で呼んで…。それで、一路を怒らせたかなぁと思って…」 頬を秋月の人差し指で刺されたまま、目を伏せて秋月に謝った。 そんな壬生を見て、秋月は、遠目に自分達を見る周囲に気にして、目の前の友人をちゃんと見ていなかった自分を恥た。 「ヨシッ!じゃー楽しくランチ食べよ!」 「うん。でもその前に、頬の人差し指を外してほしいです」 「アーッ、ごめんごめん!」 「謝ってる感じがしないよ、一路」 「あ、バレた?」 周囲の視線を尻目に、少し顔を赤らめてふくれっ面をする壬生と、無邪気に笑う秋月。 その様子を窓越しに眺めていた土師は、 「秋月、…気をつけろよ」 届くはずもない声で呟いた。

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