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第18話

「土師、ありがとう」 秋月は、遅れて教室に戻ってきた土師に声をかけた。 「ああ、気にするな」 すまなそうにする秋月に、土師は軽く笑った。 「吉原は大丈夫だったか?」 「本人は何ともないとは言ってたけど、大事を取って保健室で休ませた」 「それがいいな」 ホッと胸をなでおろした秋月。 「それにしても、お前…」 「分かってる。吉原には申し訳ないと思ってる」 その様子に、土師はすこし咎めるように言おうとしたが、被せるように秋月が言い返す。 「けど、さっきのは流石に声かけるだろ!クラスメイトの心配をして何が悪いんだ?」 秋月は、この1週間で、自分のことをちゃんと理解していた。 壬生の友人というだけで、周囲から声もかけられず、好奇の目で見られている。 そんな秋月から声をかけられた者は、異端視される恐れが多分にある。 どこか一匹狼な雰囲気を持つ土師と違い、吉原は"普通の生徒"だ。 そんなクラスメイトに秋月が声をかければ、彼は確実に爪弾きになるだろう。 それぐらいこの学園は特殊な世界であることも理解していた。 ただそんな学園(せかい)でも、秋月は人として恥ずかしくない行動をしたかった。 「それでもだ。あまり目立つ行動は謹んでおけよ」 自分のことを心配してくぎを刺す土師に、 「…ああ、分かった」 秋月は仕方なしにうなづくしかなかった。

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