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第19話

「今日の一路、凄かったね!」 秋月が部屋に入ると、飛びつきそうな勢いで壬生が駆け寄ってきた。 「水泳をやってたって言ってたけど、他も凄いんだね!」 鞄を机の上に置き、椅子に座る秋月。 「まぁ、父親が運動神経良かったから、その血だな」 「もう、みんなビックリしてたよ!」 「そうか?」 「そうだよ!だってね……!」 自分の事のようにひとり盛り上がる壬生に、秋月は苦笑しながらも、優しい気持ちで耳を傾けた。 「あ、あのボールが当たった子は、大丈夫だった?」 幾分か興奮が治まった壬生は、ゆっくりとベットに腰掛けた。 「ああ。とりあえず大事をとって、午後からは保健室で休んだけどな」 話がひと段落したと思い、秋月は今日の授業の復習をするため、鞄から教科書を取り出しながら答えた。 「一路……土師君と、仲いいんだね」 「土師?」 唐突な壬生の言葉に、秋月は手を止め、彼の方を向いた。 すこし俯いて喋る壬生目に入り、秋月は教科書を取り出すのを完全に止め、体ごと壬生の方へ向き直した。 「…うん。体力測定のとき、ずっと一緒で、とても仲が良さそうだったから」 「アイツは俺に声をかけてきた唯一のクラスメイトだからな」 俯いて足をぶらぶらさせる、まさに子どものような壬生に、クスリとした秋月。 俯いているため、そんな秋月に気づかない壬生は、そのまま話しを続けた。 「一週間経ったけど、クラスには馴染めてないの?」 「そうだな、やっぱエクステリオル( 外 部 生)だからかな。なーんか見えない壁があるんだよなぁ」 どうしたものかと思いつつ、他方でどうでもいいかとも思っている秋月は、考える風に腕を組んだ。 「けど…、土師君にはその壁がなかったんだ」 「ああ、アイツの場合、面白半分だったと思うけど」 一週間前の不躾な質問をしてきた土師を思い出し、秋月はハハッと笑った。 その声を聞いた壬生は、顔をあげ、 「面白半分で声をかけてきたと思うのに、仲良くなれるものなの?」 不安げな表情で秋月に尋ねた。 「土師は、何となく俺に近いんだよなぁ」 「近い?」 「うーん、感覚的なものだと思うけど、アイツ金持ちだけど、どっか一般庶民な感覚を持ってるっていうか…」 上手く伝えられないでいる秋月に、 「私は持ってなさそう?」 壬生は首を傾げて言った。 「え、司!?司は絶対持ってないわ!」 一般庶民とは程遠い世界、加えて箱入り息子として育てられた壬生が、その感覚を持っているなんて、全く想像できない秋月は、腕組みをほどき、ぶんぶんとその腕を横に振った。 それを見た壬生は、あからさまに落ち込んだ。 「なーに、落ち込んでんだよ」 すこし大袈裟すぎたと思った秋月が声をかけると、 「私も、土師君みたいに、一路と仲良くなりたい」 ぼそりと壬生が呟いた。 「私は、一路の言う"いっぱんしょみんな感覚"?は持ち合わせていないみたいだけど、土師君みたいに一路とスキンシップを取る友達になりたい」 「スキンシップ?」 壬生の言う"スキンシップ"の意味が分からず、オウム返しをした秋月。 「その…、体力測定のときに…、抱きつきあったりしてたから…」 「あー、アレ!」 ほんのり顔を赤らめて言う壬生に、"スキンシップ"の意味が分かった秋月は、 「ってか、抱きつきあってないから!アイツが、勝手に俺の筋肉触りだしただけで、俺は土師に抱きついてはいない!」 慌てて深い意味はないと否定する。 「そうなの?」 壬生は、"ホント?"という表情で秋月を見つめた。 「そうなの!アイツが筋肉フェチとか言い出して、やめろって言っても触ってくるから、もう諦めたんだよ。土師の奴、たまに、いや、しょっちゅう変わった行動するからな……」 ハァ~っとため息交じりで話す秋月に、 「一路」 壬生が目を不安げに動かしながら遮った。 「あの…」 「ん?」 遮った割に小さな声で話す壬生に、秋月は耳を向けて近づく。 「私も…って…」 「え、何?」 「私も…、触ってみてい?」 「触る?」 またも意味が分からずオウム返しをした秋月に、 「私も、一路の筋肉、触ってみたい!」 がばっと立って真っ赤な顔で叫んだ壬生。 「……」 ポカーンとした表情で見上げる秋月を見て、一気に恥ずかしくなった壬生は、ぽすんとベットに戻った。

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