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第21話

――シャーーー―― シャワールームから漏れる音が、部屋に響く。 机の上に数学の教科書とノートを広げるも、一向に筆が進まない。 シャワーの音より、自ら発する鼓動が体中に響く。 「ああいう事も、友人であれば普通なのかな…」 今日の体力測定で、秋月の思わぬ身体能力の高さに驚いた。 それと同時に、周囲の秋月を見る目が変わったことにも気付いた。 壬生は始めから分かっていた。 壬生司(自分)と一緒にいると、秋月()が周囲から距離を置かれることに。 壬生は考えていた。 学園(ここ)に入ってから、いや、物心ついた頃から、自分は他者と違うということを、嫌というほど感じていた。 ()からは常に言われていた。 『お前に声をかける者が現れたら、先ず疑え』 出かける時は、必ずボディーガードが2人。 実家に戻る時も、寮部屋の前まで執事がやってくる。 きっと持ち物のほとんどに、GPSがつけられているのだろう。 そして、他者との関わりを持たない。 この生活が息苦しいと思ったことはない。 それが当たり前として生きてきたから。 ただ、友人は欲しかった。 学校で見る、仲良く笑いあう同級生たち。 時に、喧嘩をして話さないこともあるようだが、数日すればまた楽しそうに笑いあう。 羨ましかった。 何度か自分から声をかけようとした事もあった。 が、その度に、 『その方はいけません』 必ずボディーガードが止めに入った。 始めは何が駄目のか分からなかった。 しかしそれも、歳を重なるにつれ分かっていった。 皆、"司"ではなく、"壬生家"と仲良くなりたいのだと。 だから、騙されるなと。 だから、仲良くなるなと。 よくある話だ。 それからは、自分がどういう立場の人間なのかわきまえて行動するようになった。 必要以上に他人と接することはせず、身内が認めた者とだけ会話をする。 友人を作ることは諦めていた。 そんな自分の前に現れたのが、秋月一路だった。

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