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第26話
「秋月」
午後の授業が終わると、すぐに久我は現れた。
ドアから名前を呼ぶだけで、一向に教室に入る気配のない久我に、秋月は早くしろと言う意味だなと思い、さっと帰り支度をし、ドアへ向かった。
「じゃあな、土師」
秋月が土師に声をかけて教室を出ようとしたところ、土師は"あ!"と言って、慌てて秋月の腕を掴み、
「明日、"今日のコト"教えろよ」
と意地の悪そうな笑顔で囁いた。
秋月は苦笑いをし、"わかった"と口パクで答えると、久我とともに教室をあとにした。
秋月は隣りを歩く久我をそれとなく観察する。
いつも、と言っても今朝を含め2回しか会っていないが、座った位置から久我を見上げていた。
そのときは身長 があるなと思っていたが、並んで歩くと秋月とさほど高さが変わらない。
逆に細身な久我は、競泳で鍛えていた秋月と比べると、小さく見えるのではないだろうか。
「どこまで聞いた」
前を向いたまま、久我が秋月に声をかけてきた。
「あー……、"高貴なグループ"ってことぐらい?」
秋月は久我からの突然の会話に、どこまで言っていいのかと思い、なんとなくぼかして答えた。
「噂を含め、大体のことは知っているんだな」
久我は全てお見通しのような口ぶりで足を進める。
「久我は、"高貴な家"なんだよな?」
ならば気にすることはないなと思い、秋月は思ったことを聞いてみた。
「ああ」
「だよな。俺の中の久我のイメージだと、グループとかに所属しなさそうだし。正直、面倒くさいんじゃないの?」
「……」
無言の久我に、答えにくい質問だったかと思った秋月は、別の話を振ろうと口を開けようとした。
その瞬間、
「秋月、忠告しておく」
久我は足を止め、秋月の方を向き、真剣な表情で、
「"壬生司"に関わるな」
はっきりと口にした。
「…と言っても、もう無理だろうが。必要以上に関わらない方がいい」
しかしその表情は一瞬で、すぐにいつもの冷めた久我に戻った。
「…何で」
秋月は久我の忠告よりも、明らかな彼の表情の変化に対し疑問を抱いた。
「彼は、"皇帝 "と言われているが、"皇帝 "は彼じゃない」
久我は、答えではないような答えで返した。
「もちろん"神 "でもないが……」
再び歩き出した久我に、慌てて横に並ぶ秋月。
「君のグループ参加は彼の意向だが、もし断ることができるなら、断れ」
詳しいことは言わず、ただ淡々と口にする久我。
「このグループにも関わらない方がいい」
冷めた横顔から久我の真意は分らないが、敵意を感じない彼の忠告に秋月は、
「久我、ありがとう」
前を向いたまま優しく礼を言った。
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