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世界がひっくり返ったような異様な感覚の後、背中に土の感触を感じた。恐る恐る目を開けると…… 「?」 目に入ってきたのは、重なりあった緑。 鬱蒼とした森の中にいるようだ。赤茶の樹木、どうやら昼間のようだが、少し暗い。 ここはどこだ? 自分は倒れてしまい、夢でも見ているのだろうか? 「お前が身代わりか?」 いきなり低い嗄れ声で話しかけられてドキッとした。慌てて身を起こして振り返れば 「……えっ?」 樹を見下ろしているのは大きなドラゴンだ。赤く硬い鱗、蝙蝠のような翼、金色の瞳、大きな牙、力強い四肢。あの絵の竜そのものだ。 「う、わぁあ……! すごい! すごいすごい!」 樹は竜に抱き付くようにして、その体を触りまくる。 「お、おい」 竜が戸惑うような声を出したが、樹は気にせず竜の顎の下や牙に触れた。これは夢だ。ストレスマックスだった樹は現実逃避の夢の世界にいるのだと思ったのだ。 「ああ、やっぱり素晴らしい。セクシーで美しいよ」 「お前……私が怖くないのか?」 「全然! ずっと好きだったんだ」 樹の言葉に竜は目を見開いた。 「おかしな人間だ。前の人間達は私を拒み続けたと言うのに……お前の名は?」 「花村樹。前の人間って?」 竜はその場にごろりと伏せて、樹と目線を合わせて話し始めた。 柏木了一は確かに血を混ぜて竜を描いた。 自分自身の血だ。この絵を描いていた頃、病に侵されていた柏木は死期が近い事を知っていた。 この竜は柏木の分身なのだ。 そして一緒に描かれた青年は若い頃の想い人だという。想いを告げる事もできず、疎遠になった幼馴染の青年を想い描いた。まるで生きているようだと絶賛されていたが、確かに柏木はこの遺作に命を与えたのだ。 「最初の人間は私を拒んだ。そして身代わりに他の人間を引き込んだのだ。その人間が今度はお前を引き込んだ」 「その人は?」 「お前の代わりに外界へ行った。お前は私の花嫁だ」 「それを言うなら花婿でしょ。絵のタイトルも『竜の花婿』だ」 「お前は……本当に変わっている……」 竜は小さく呟いて、樹の頬を大きな舌で舐めた。その温かく生々しい感触に樹は「あれ?」と思った。夢にしてはリアルすぎる。試しに頬をつねってみた。 「痛い」 夢にしては痛すぎる。樹は竜に聞いた。 「夢ですよね?」 「夢ではないぞ」 竜は身を起こし、樹に覆いかぶさってきた。 「夢じゃない? 嘘でしょ! そんな漫画みたいな……わっ!」 竜の大きな手が樹の体を包むように捕えた。樹は慌てて竜の指を開こうと両手で押すがビクともしない。

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