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訪れる恐怖
「な、何の用、ですか?文汰は仕事で、ここにはいません、」
「知ってます。今日はあなたに用があって来たんですの。お客が来たのに、家にも上がらせてくださらないのですか?」
本当は家に上げたくない。あの時もこの人に、自分の気持ちを伝えたはずだ。でもこの人は、家に上げてもらわないと気が済まないらしい。
女性だけだったら、白も頑張って断ろうと思った。しかし、女性の後ろ、少し離れた場所にいる黒服の男達の存在が怖かった。
断ったら何かをされるかもしれない。もしかしたら、紡に怪我をさせるかもしれない。
そう思うと、怖くて断れなかった。
どうぞと小さな声で招き入れれば、女性は当たり前のようにズカズカと靴のまま上がっていく。ちゃんと玄関があるのにだ。
「あのっ。くつ、」
「あら。あなたみたいな存在が、私に指図出来るとお思いで?」
ギロリと睨まれれば、それ以上何も言えず。白はただ黙ることしか出来なかった。
「本来なら、お茶を出していただきたいのだけれど。あなたみたいな下層の人間がいれたお茶なんて飲みたくもないし、早く用事を済ませたいの」
「用事って、」
リビングについて、優雅にソファーに座った女性がにっこりと笑った。そして笑ったまま告げた言葉は、白にとって残酷なものだった。
「あなたに、この家を出てもらおうと思って。だって、私と文汰さんが結婚するんですもの。父がそう進言してくださると。だからもう、あなたはこの家に必要ない。近いうち、私が文汰さんの妻になるのですから。あぁ。心配しなくても、その薄汚い子供は育ててあげます。文汰さんの血の繋がった子供ですから」
信じられない言葉だった。
女性は、白にこの家を出ていけと言ったのだ。自分が文汰の妻になるからと。
しかし、文汰の妻は白である。そんな勝手なこと許されるわけがない。しかし、女性はもう文汰の妻になったかのように、いかに白が文汰にとって必要ないものかを語りだした。
「お分かり。もう文汰さんに、あなたの存在は必要ないの」
入ってちょうだい。
女性の言葉と同時に、リビングのドアが開いた。そしてそこからゾロゾロと入ってくる黒服の男達。
「な、何。ちょっ、やだっ!やめてっ!!つむぐっ」
黒服の男達が白に近づいたかと思うと、無理矢理白の腕に抱かれている紡を奪った。急に母親である白から離されて、紡は泣き叫んだ。白も必死で取り返そうとするが、黒服の男に羽交い締めにされ叶わず。
「んもぅ。うるさいわね。早く別の部屋に連れていってちょうだい」
「つむぐっ!!!」
女性の命令通りに、紡を抱いた黒服の男はリビングから出ていった。紡の名前を呼びながら泣き叫び白の姿を見て、女性は高々に笑う。
「じゃあ、これで本当にさようならよ、」
女性がそう言うと、白はそのまま黒服の男達に引きずられながら家を無理矢理出された。そして車に乗せられる。
嫌だと抵抗しても、白が敵うわけもなく。
逃げ出すことも出来ずに、車は走り出した。
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