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堕とされて、それから

車で連れ去られて、白はどこか分からない場所で無理矢理降ろされた。車に乗り込もうとしても、黒服の男達に敵うわけもなく。無惨にも、白を乗せていた車は走り去った。 唯一の連絡手段であるスマホは、家を追い出される前に綾瀬家の女性から奪われていた。もう誰にも助けを呼ぶことはできない。 もう誰の家でもいい。とにかく電話をしたい。文汰に、早く文汰に会いたい。紡に会いたい。その一心で家を探すも、どこにも見当たらない。 黒服の男達はそれを分かった上で、きっと白をここで降ろしたのだ。 「もう、文汰に会えないのかな。紡にも、会えないのかな。会えないまま、文汰はあの人と結婚するのかな」 不安と恐怖でいっぱいで、悪い方にしか考えがいかない。もう一生会えないんだと、諦めるしか白にはできなかった。 もしかしたら、汚い人間である白には似合わない幸せだと神様が怒ったのかもしれない。だから、自分が今こんな風になっているんだと。 本当に幸せだった。文汰と紡と3人で、ずっと味わえる幸せだと思っていたのに。 「っ、あや、た」 お守りだと文汰に渡された、クローバーのネックレスをギュッと握った。ギュッと握りながら、ただただ文汰の名前を呼んでいた。 「しろっ!!!!」 幻聴だと思った。自分を呼ぶこの声は、紛れもない文汰の声で。だからこそ幻聴だと思ったのだ。文汰が、こんな場所にいるわけがないと。 それでもいい。幻聴でも、幻影でも。文汰に会えるのなら。 だから、声が聞こえた方に向けて顔をゆっくりと向けた。すると、文汰が白の名前を呼びながら走っていた。 走っている文汰の幻影がこっちに近づいてくる。ぼんやりと白がそう思っていると、何か暖かいものに抱き締められた。 もしかしたら、自分を食らおうとする野生の動物かもしれない。そう思っていたのに。 「しろ。やっとみつけた、おれのしろっ」 自分を抱き締めていたのは、紛れもない文汰で。何でここにいるのと、いるわけがないのにと。これは夢だと思っていた。 しかし、自分の肩が濡れていくのが分かる。雨なんて降ってはいない。 あぁ。肩が濡れるのは、文汰が泣いているから。この濡れる感触は、間違いないもので。 「しろ、しろ」 「っ、あやた。あやたっ!!」 白も、泣いて文汰の名前を呼びながらしがみつくように抱きついた。

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