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失われることのない幸せ
「んっ、」
「起きたか、白」
「あやた」
ゆっくりと白が目を覚ますと、そこは見慣れた自分と文汰の寝室だった。ちゃんと紡用のベビーベッドもある。いつの間にか、家に文汰と一緒に帰ってきていたらしい。文汰が少し笑いながら話してくれた。
白は、いっぱい泣いて子供みたいに泣きつかれて寝た、と。子供みたいと言われたのはちょっといただけない。
「子供みたいとか、言わないで」
「あぁ。でも、本当可愛かったぞ」
「も、やめてよ。恥ずかしい、」
恥ずかしそうに頬を染める白を、文汰はギュッと抱き締めた。もう離さないと言うようにキツく抱き締めてくる。文汰の抱擁が、白にこれは夢じゃないと教えてくれる。
もう、文汰と離れたくて済むんだと一瞬思ったが、あの時のことを思い出した。この家から無理矢理追い出された時のこと。
もしかしたら、綾瀬家の女性がここに潜んでいるかもしれない。この家に。
しかし、そんな白の不安を感じ取ったのか、文汰が優しく頭を撫でてきた。
「心配するな、白。もうあの女が俺達の目の前に現れることはない」
「ほんと?」
「あぁ」
力強い声だった。
文汰が言うのだから信じられる。文汰がもう現れることがないと言えば、あの女性は現れないのだろう。きっと、文汰が何かをしてくれたんだ。
本来自分みたいな存在は、文汰にとって切り捨てなければならない存在なんだと白は思っている。でも文汰は、そんな自分のために、自分と一緒にいられるように頑張ってくれた。
「――――――ありがとう、文汰」
「当たり前のことをしただけだ。それよりも、早く紡を安心させてはくれないか?お前がいなくなってから、ずっと泣きっぱなしなんだ」
文汰が今の言葉を言うのを待っていたかのように、村田が2人の寝室に紡を抱っこして入ってきた。村田の腕に抱かれている紡は、確かに泣いていた。
そして紡は白の姿を見つけると、小さい腕を一所懸命伸ばしていた。
「ほら、白。紡はお前を呼んでるんだ」
自分も、紡と同じように腕を伸ばした。本当に文汰の言う通り、紡は自分を呼んでいるんだろうかと心配になる。もし、もしも勘違いだったら。
「おいで、紡」
村田の腕から、そっと自分の腕に紡を移す。
「紡、ママだよ、紡」
あんなに泣いていたのに、白が抱いただけで紡は泣き止んだ。
「ほら。紡はお前を呼んでいたんだ」
そうだよ。紡がそう言ったかのように、にっこりと笑みを見せた。
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