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第2話

練習を終えて外に出ると、肌に張り付く湿度の高い闇が夜を満たしていた。車のエアコンを最強にして、小さな音で洋楽を流しながら走り出す。 「なぁ、これってほんとは巫女が踊るんだろ。巫女って処女だよな?じゃあ男なら童貞?夏生はまだなの?」 俺の質問に夏生は苦笑した。 「ふうん、否定しないってことはそうなんだ。ツレが多いのに意外」 俺の意地悪に機嫌を損ねた顔が年上の癖にかわいい。 「やったはやったけど…その後すぐ別れたからなぁ」 「下手だったってこと?」 怒るかと思ったのに、夏生は声を上げて笑って左手で俺の頭を小突いた。 「お前死ぬほど失礼だな。卒業直前にやった後、『五月からワーホリに行くの』って言われてそれっきりなんだよ」 やり逃げ?と思ったけど、黙っておいた。 「祥爾はモテるだろ。彼女いるの?」 「俺、童貞だよ」 処女じゃないけど。 夏生が細い目を精一杯見開いた。 「まじか、意外だな」 「そう?俺様、純情路線まっしぐらよ」 その言葉に嬉しそうに笑った夏生に、俺はずっと恋していた。 家まで短いドライブ。灯の少ない闇を車で抜けてゆく。 「痒い!なぁ、蚊がいない?」 ドアを開けた時に入ったのか車内で蚊に刺されていた。 「くっそ痒い。やぶ蚊か、腹立つな!」 騒いでいたら隣からキンカンが差し出された。 「こんなん持ち歩いてるんだ?」 「俺A型で、よく刺されるんだ」 掻いてたところに塗るとめちゃくちゃ染みて痛い。隣で夏生も首筋を掻いている。 「塗ってやるから手ぇどかせて」 「ん」 信号で止まった所で首に塗ってから、ふぅーと息を吹きかけた。 「っ!何っ?」 「はーい、もう一回塗りますよ。他に痒いところはございませんかー」 暗い車内でも日焼けした夏生の肌のトーンが濃くなったのが分かる。真っ赤になっているんだろうな。反応がよくってついついからかってしまうんだ。

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