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第4話
練習は毎週火曜日の夜。俺も夏生も予定を入れないようにしている。
「なぁ、夏生は何であんな風に踊れんの?」
練習を終え、鉾鈴を布にくるんでいた夏生が手を止めて、少し考えてから言った。
「それはあれだ。気合いだよ、気合い」
「なんだよ、気合いって。超適当!」
夏生が笑った。
「コツ…教えてよ」
夏生と出来るだけ長くいたい。それだけだ。
扇風機の前で胡坐をかいていた俺が四つん這いで近づいて台の上に置いた扇を取る。隣の夏生を見上げると、視線を泳がせた。
迷っているような顔をそのまま見つめていると、何度が瞬きをしてからゆっくりと口を開いた。
「教える、って今?」
この後何か予定があるのか、困ったような表情だった。
めくれ上がった上唇は心なしかいつもより赤く見える。えらの張った男らしい顎のラインを見ているだけで、身体が夏生を求めはじめる。こんなに近くにいても触れられないなんて。
「週末でもいいからさ、教えてよ」
「週末な、分かった」
少し安心したような夏生の顔を横目でみながら、扇を手に立ち上がった。
用具入れの棚は廊下の突きあたりにあった。神楽衣装の箱もある。もうすぐこれ着て踊るのに実感わかない。
薄暗い蛍光灯がちらつく下でぼうっと棚を見ていたら、後ろに気配がした。
振り返ると心ここにあらずと言った体で夏生が俺の背中を見ている。
手に持った鈴を取ろうと腕を伸ばすと、はっと気づいて身体を緊張させた。喉が上下するのが見えた。
「ここも、暑いな。鈴置くから、前を開けて」
俺をよけながら腕を伸ばして箱をしまい込んだ。上腕に盛り上がる筋肉の上の縁が光ってる。制汗剤だろうか、汗にまじって微かにいい匂いがした。
暗い所に二人きり、この腕を掴んでキスして、舌を捻じ込みたい。汗をかいた首筋に唇を当てたい。でもドキドキしてるのは俺ばかり。
下んない女に騙されてやり逃げされちゃう夏生、俺なら満足するまで抱かれてやれるのに。
窓の外から入る風が、朝を待ち切れずに深い息をはく草の匂いを運んでいた。
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