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第6話
舞は、完璧すぎるくらいだったらしい。
労いに来てくれた自治会の人に散々褒められて、この後の宴会にも来るようにと念押しされた。おじさんたちが去った後に母親が満面の笑みで飛び込んできた。
「祥爾!あんた凄かった、なんか乗り移ってた?感動したわ!夏生くんありがとうね」
「俺じゃなくて、祥爾ががんばったから。にしても踊る前はあんなに緊張してたのに舞台に出た途端凄かったな」
座布団を並べて座っていた俺の肩を抱き寄せて頭をぐしゃぐしゃと撫でる夏生の匂いに、ようやく本番が終わったことを実感した。
「夏生が教えてくれたおかげだってば」
「相変わらず仲がいいわね、あんたたち」
何も知らない母さんは平気でそんな事を言う。
その時開け放しになった入口で人影が動いた。
視線を向けると予想もしなかった相手がいた。表情が険しくなったのが自分でも分かる。
センパイが何でここに?
祭の話はしたけれど見に来てなんて言ってないし、そもそも家だって遠いはずだ。
話に夢中だった母親がようやく俺の視線に気が付いた。
「そうそう、見たことない子がいてさ、聞いたらあんたの先輩だって?遠藤くん、ごめんね。どうぞ入って」
忙しなく話した後、宴会の準備のため部屋を出る母親に会釈したセンパイは、俺と夏生をかわるがわる見てから、俺だけに笑顔を作った。あからさまだった。
「祥爾、すげぇな…お祭りで踊るってこんなんだったのか」
分かりやすく無視し続けるセンパイに気づいて、夏生が俺の肩から手を離した。
密着していた身体が離れた。ひやっとしたのは、今になってきいてきたエアコンのせいなのか、黙ったままの夏生のせいなのか。顔は見ていないけれど、隣でむっとしているのが伝わってくる。
本番の高揚から一転して混乱している俺を、センパイが心配そうな顔して覗きこんだ。
学校以外で会いたくなかった。夏生に会わせたくなかった。
伝わるか伝わらないかギリギリの溜息をついて、視線を上げた。
「隣の市からわざわざ見に来てくれたの?」
俺の嫌味に唇が歪む。
「こっちに用があったついでだよ」
嘘だ。
「一緒に踊ったのは友達?」
あんたには関係ない。
でも隣に座っている夏生が、挨拶もしてこないセンパイに丁寧に答えた。
「山下です。幼馴染って言えばいいのかな。祥爾とは小中一緒で今でも仲いいから、友達だよ」
「へぇ、俺は遠藤です。祥爾とは仲良くやらせてもらってます」
その言い方に頭に血が上った。
一言一言がいちいち引っかかって、夏生を怒らせようとしているみたいだった。
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