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第4話

海底の沈没船を引き揚げるように、ゆっくりのっしりと意識が浮上する。浮上し、だんだんと意識がはっきりとし始めた。 いつの間にか眠ってしまっていた。まぶたを閉ざしたまま、ぼんやりと夢うつつを揺蕩っていると、頭に何かが触れる感覚があった。驚き、まぶたと頭をあげれば、「わわっ」とひっくり返った声が鼓膜をついた。 ベッドに横になり、こちらに身体を向けたリョウが、ぱちぱちと目を瞬き、右手を宙に浮かせていた。その手で圭一郎の頭を撫でていたのだ。 ベッドに突っ伏して眠っていた。「わ、悪い」と謝罪の言葉がまろび出た。 「ううん……ごめんね、起こしちゃって」 「いや……、今何時だ?」 「夜中の12時過ぎ。おれもさっき目が覚めちゃった」 圭一郎が作った氷枕を敷き、リョウは夕方の6時頃には眠りについた。その寝顔を眺めていた圭一郎も、いつしか意識を飛ばしていた。……6時間弱も眠っていた。体勢が体勢だっただけに、腕や肩の関節が軋むように痛んだが、覚醒した頭はすっきりとしている。 「けーくんのお陰で、熱が下がったみたい。喉の痛みもかなりマシになったよ」 嬉しそうに微笑むリョウに、熱を測るように言う。体温計を脇に挟み、しばらくしてピピッと軽い電子音が鳴った。……37.3度。熱がだいぶ下がり、ふたりしてほっとする。 が、まだ油断してはいけない。明日も、絶対安静だ。 「こんな時間だ。もう一度寝たらいい」 「うん……でも、かなりぐっすり眠ったから、目が冴えちゃって」 圭一郎もそうだった。しばらく眠れそうにない。仕方がないので、リョウのかたちの良い頭を撫で「少し話をするか」と提案すれば、リョウはふにゃりと笑って頷いた。 部屋の明かりをつけ、圭一郎は彼のほんのりと熱を持つ手に指を絡める。そして、口の端をゆるやかに上げた。 「誕生日、おめでとう」 「……ふふ、ありがとう」 リョウは面映そうに言った。じっと圭一郎の顔を見つめてくる。若手俳優のような華やかな面立ちで、それ相応の性格の彼が、なぜ自分のようなしがない男に惚れてくれたのだろう……。分かるようで分からない。しかし、顔や言葉にはそうそう出さないが、その事実が、現実が、嬉しくてしょうがなかった。 「……プレゼントだけでも、渡していいか?」 圭一郎の言葉に、リョウは最初きょとんとした表情をしたが、やがてとろんとした双眸を輝かせ、首を縦に振った。 「何かくれるの?」 「あぁ、まぁ……」 期待に満ちた眼差しに、一瞬気後れしたが、渡すと言った手前、引っ込めるわけにもいかず、スラックスのポケットに右手を入れた。取り出したものを手のひらに乗せ、リョウに見せれば、彼はまたきょとんとした顔になった。

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