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第4話

 スロットの機種は二つ。  ボタンを押して止めるタイプと、自動的に止まるタイプ。  一回ずつやってみた結果、ボタンを押して止めるタイプは負け、自動的に止まるタイプは勝ちだった。  それからも何回か繰り返しても結果が同じなので、前者のスロットは運では無くて動体視力とかそう言ったスキルを持っている人が優位になる様に作られているようだ。  俺の場合は後者の運が頼りのスロットじゃないと当てられないって事だな。  金額のボタンが三種類、真ん中の金額に固定して開始ボタンを押す。  目の前でスロットが回りまた当たる。  ……なんだろう、神が言っていたことが今なら少し分かる気がして来た。  やっててなんも面白くない。こういうのは偶に当たるから楽しいのだろう。だが俺には金が必要なのだ。 「違うとこ行こう」  こうして俺はフラフラとカジノを彷徨った。  ポーカーも手札が強く、ブラックジャックもブラックジャックかそれに近い強い手札しか来ない。一度隣に座った人に驚かれた、きっと彼もそれなりのスキルを持っていたのだろう。だが俺のスキルの方が上だったって訳だ。  ……ちょっと申し訳ない気分になった。俺のスキルは努力の結晶でなくて、ある意味ずるだからな。  そそくさとルーレットに移動して、最初は色別に賭けていたけれども、数字で賭ければ当たる。  更に移動して対面のお店にもあった将棋やらがある場所にやって来た。流石に囲碁将棋は勝てないだろうと思うのでスルー。麻雀も点数計算が分からないのでスルー。なのでこの場所はスルー。  こうしてフラフラと移動しているが、バカラなんかのゲームもやってみたが結果は同じ。最終的にはかなりの金額をかけて……そして勝った。だが勝っていると同卓している人の視線も有るので、結局は一人でできるスロットに戻って来た。  と言うのも、スロットの場所にはなんと高額向けのスロットもあったのでそこで飲み物を持参して一人でピコピコやる事にしたのだ。  夕方になるまでスロットをやり続けて、かなりのチップを得る事が出来た。  正直作業ゲー過ぎて今度来るときは他の時間を潰せるものを持ってこようとスロットに誓ったほどだ。  チップから現金に移行するのも機械で行う。処理中にカジノの歩き方なる小冊子を見つけてパラパラめくっていると処理が完了。カードを受け取って外に出た。  家に帰って来たのはそれから二時間後、外はすっかり暗くなってしまっているが寮とは名ばかりなので門限は無い。けれども高校生が深夜徘徊していると見回りの天使やお巡りさんに捕まってしまう。今日は幸運にも会わなかったけれども、今後はもう少し時間に余裕をもって行動しよう。  さて、近くのスーパーで買って来たお弁当を温めながらパソコンの電源を入れる。  トップ画面に成ったのを確認して、カードスキャナーをパソコンに接続。市民カードとカジノカードを読み込ませていく。  実はいくら稼いだか怖くてカードを見ていない。魔力を流せば表示されるが、家に帰って落ち着いてから見ようと思ったのだ。  カードスキャナーはいついくら儲けたのかを記帳するために有った方がいいとルートさんが買ってくれた物だ。  集計の終わりを告げる画面が現れ……たけれども食事を済ませる事にした。  久しぶりのスーパーのお弁当は、世界を超えても変わらぬ味だった。  さて、気を取り直して本日の結果発表ー。  最初の出費、一万円!  儲け金額、65憶5500万!  現時点税金徴収後金額、6憶5550万!  ……。  ……。  いや、何処から突っ込めばいいの!  先ずもうけ過ぎだろ! 確かに当たりバンバン引いてたけど、全部が全部一番の当たりじゃなかったのにこんなに! カジノ恐ろしい!  そんでもって税金で徴収され過ぎだから! どんだけ持ってかれれば気が済むの! これ絶対従属者いる前提の設定金額だろう! 「はぁ……」  いやまぁね、一人で過ごす分ならこれでもういいと思うけど、平穏無事に過ごすためには従属者が必須。明日にでも見に行くか。もう今日は疲れた、さっさと寝よう。  翌日、朝食を食べて学校へ。  初回の授業は掴みのような物で、ちゃんと勉強するような感じでは無かった。  今日はシリルも一緒にご飯を食べた。やっぱりぶっきらぼうだけど、ちゃんと付き合ってくれる人だ。 「なぁ今日は午後二人ともどうする?」 「俺はやることがある、じゃあな」 「んー、今日は俺もパスで、ごめん明日また誘って」  折角のお誘いを断るのも気が引けたが、従属者は早めにゲットしておいた方がいいだろう。従属者がいれば税金もましになるからな。簡単に言えば一人頭いくら免除って事になるから、多ければ多いだけいいのだ。  本日は電車を乗り継いで従属者契約所にやって来ましたー。  此処は天使達運営が管理している場所で、調べた結果が本当ならかなり酷い方法で従属者を売っているのだ。  中に入ると、俺と同じく従属者を求めて多くの人が訪れていた。  一応今日の暇な時間に色々と調べたりホームページを見て勉強してきたので迷わない。  この契約場には二種類の売り方がある。  一つは適当に見て回ったり職員に聞いてお勧めを教えてもらう方法。ただし此方はランクEまでの従属者しかいない。  もう一方は悪名高きガチャである。  そうガチャである。  しかもだ、出たらそれっきりなのだ。なので一日に出る高レアリティ数は決まっている。と言うのも、同じ人物はいないのでこの日はこの人が出ます! いなくなったらお終い! というガチャに輪をかけて酷い物なのだ。  だが此方のガチャはS~Dまでのランクの従属者が出る。  まるでゲームのようだけれども、この世界が神のゲーム場のような物だしもう気にしない事にした。だが従属者にランクが付いていると知った時はかなり驚いた。  だが説明を見て成る程と納得した。なにせ高ランクなら一人で複数人分従属しているというカウントになるのだから。  例えばダンジョンに出てくるとある敵を2人で倒せたとしよう。しかし新たにやって来た一人がその敵を一人で斃してしまった。つまりこの人は二人分の戦力を保有しているので、二人分従属していると同じ、なんて暴論のようなランク付けなのだ。  だが、確かに従属者の数が力の世界で、何千人とずらりと連れて行くと色々と面倒な事が起きるだろうし、こっちのがスマートになるので個人的には有難くもある。だって何千人分の住居とか食費とか用意しないといけないと思うと眩暈がするだろう?  という事で俺が狙うのは高ランクの従属者。一応一回引いてみてスキルが効いているのか確かめる。効いていなかったら三回だけ引いてEFランクの従属者も見る。今はEFでも育てればCとかになってくれるかもしれないから、EFが一概に悪いという訳でもないのだ。  だが今はとにかくかさ増し要員が欲しい!  ガチャの部屋に入ると、ガチャ専用タブレットが手渡される。これにお金を入れてガチャを引くのだ。ガチャの種類は四つだが今引けるのは三つ。一番最初のSランクは加入次第となっている。Sランクなんて早々いてたまるかって事か。ルートさんにSNSでランクの事を聞いたら、Sランクってのは幻らしい。  俺の運なら若しくはと思ったけれども、今加入しました! なんて事は無かった、残念。  引けるはA~D、B~D、C~Dが出る三つのガチャだ。それぞれ勿論金額が違う。その中でも俺が引こうとしているA~Dは一回一億とか意味わからん値段のガチャだ。だが今の俺なら引けるのがまた恐ろしい。  それではカードから一億だけチャージしてガチャをポーン。勿論スキルは発動済み。どうだ、このスキルはガチャに影響を及ぼすのか?  浮かび上がる演出は、牢屋に魔法陣が浮かび上がる物。そして牢屋の扉が開き牢屋の中が光で覆いつくされ、その中から何かが外へと飛び出した!  そのまま画面がホワイトアウトして、リザルト画面へ。  ガチャ結果。  ランクA、アンドル。  そう書かれた画面には、契約する場合はこの場所に来ることと書かれていたので、移動を開始する。  ……まさかガチャにまでスキルが及ぶとは。これはかなりのチートなんじゃないのか? いや正直昨日の金額を見た時から感じてはいたんだが、これってかなりすごいことだよな……。  映し出された地図の通りに進むと、一際大きな扉の前に誘導された。どうやらこの中に例のランクAがいるのだろう。少し緊張しながらノックをすると扉が開き、中から此方に礼をしてくれる天使さんが出てきた。そのまま入る様に促されたそこは、中継ぎの部屋のようで直ぐ奥に扉が見えた。 「ようこそおいでくださいました、先ずタブレットとカードをお預かりいたします」  言われた通りに預けると、扉の近くに置かれているパソコンに通して何かを確認している様だった。 「失礼いたしました、それでは此方へ」  奥の扉が開く。  中は綺麗で豪華な客室と言った風体で、そのゆったりと座れるソファーに一人、堂々と腰かけている人物がいた。  目は鋭く服の上からでも分かる筋肉、だがそれが似合う体躯をした虎の獣人だった。 「どうぞお座りください、紅茶とコーヒーはどちらが宜しいでしょうか?」 「紅茶でお願いします」  対面に座ると居るだけで威圧されそうなほどに大きい。敵になったら真っ先に逃げ出したい。正直いってちょっと怖い。 「お待たせいたしました」  目の前に紅茶が置かれる。丁度この空間のせいで咽喉が乾いたのでかなり助かった。 「それでは改めまして……おめでとうございます! お客様の引かれた此方のアンドルは本日の限定Aランクでした。彼がいなくなり既にAランクガチャは締め切っておりますので、もしガチャ結果を破棄する場合は早めに仰って頂きたく思います。ガチャ結果を破棄した場合は、他のガチャと同様に使用された金銭はお返ししかねますのでご了承下さい」 「分かりました。それで、えっとアンドル? さんはどうして従属者に?」 「此方のアンドルは、戦闘系では負けなしといっても過言でない程でしたが、それが酷くつまらなく感じお酒の勢いでカジノで借金を負い従属者に成りました」  …………笑えない。  彼の事もそうだけれども、昨日だけでもちょっと俺にもその気があった。ギャンブルで負けないのがつまらないという思いだ。  その理由を聞いて、何故だか一気に目の前の獣人の威圧が溶けた気がした。相も変わらず虎その物みたいな顔してるけれども、何処かちょっと哀愁がある様にも感じてしまう。 「分かりました、それでは契約をお願いします」 「畏まりました。お客様は従属者は初めての様ですので、新たに御主人カードを作らせて頂きます」 「……その名前もう少しどうにか、いえなんでもないです」  少し怖くなった天使さんの笑顔に言葉を切る。うん、触れてはいけない場所だったようだ。 「お待たせいたしました。此方がお借りしていた市民カードと新たに発行した御主人カードになります。御主人カードに魔力を流すと、登録している実際人数と合計人数が分かります。パソコンにカードを読み取らせた後天使お勧めのソフトを入れて頂くと税金のシミュレートも出来ますのでお試し下さい」 「分かりました」 「それでは既に登録は完了しておりますので、彼をお持ち帰り下さい。帰り口までご案内いたします」  そう言われて二人で連れてこられた入り口とは違う出口。なんでも高ランクの従属者が当たった者は普通の出入り口から出るのが非推奨らしい。折角なのでその助言に従おう。  契約場を出て少し、無言で歩いていたけれども取り合えず二人になれそうなカラオケに三十分入る事にした。 「……それじゃあ改めて、俺はキョウガよろしくお願いします」 「アンドルだ、よろしく頼むぜご主人。ご主人なんだから敬語はよせよ」  ゆっくりと握手をする。力を入れ過ぎないように気を使って貰っているようだ、有難い。  因みに殆どの人は家名を名乗らないと調べて出てきたので俺もそれに従っている。  なんでも、家名を名乗るのは結婚している人か、親の庇護下にある子共かのどちらからしい。独り立ちしたらその家名は名乗らず、結婚する人と家名を考えるのだとか。  それを知った時は、流石個が優先される世界だなぁとちょっと感心したりもした。 「えっとそれじゃあなんか歌う?」 「いや、オレは歌なんかあんま知らないから歌えない」 「んー俺もこっちの歌知らないんだよな。まぁいいか。それじゃあこれからの話をしよう。俺は今高校に通っているから寮住まいなんだけど、さっさと引っ越すつもりだ。って事で俺の学校の近くでどっかのマンションを借りるつもりだ。折角だから今から不動産に行こうと思うんだが、何か注文はある?」 「そうだな、折角なら高い方がいいぜ!」  朗らかにはにかみながら言われると、なんだか逆らえない気分になる。  なんだろう、これがギャップだろうか。先ほどまでの少し硬い感じがしない。んー、ちょっと注意しないと……、いやこの世界別に誰に惚れようと構わないのか、それなら放置だな放置。いやでもちょろいご主人って思われるのも複雑だから抵抗はしよう。

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