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第6話
朝少し痛い体を起こしてぼんやりと辺りを見る。
隣に毛皮の何か温かい物があったのでそこにぽてりと体を沈み込ませると、温かい物がピクリと動いた。
「んー?」
漸く思考が纏まっていき、自分がのしかかったのが昨日自分と従属者の契約をしたアンドルだと分かる。
「あぁごめん、おはよう」
「おう」
伸びをして起き上がる。流石に床で寝ると体の節々が痛くなってしまう。
さて今日も学校の準備をしてご飯を食べるかと思っていると、アンドルの勃起している物が目に入った。
おぉ結構なモノで。
俺の視線に気が付いたのか、少しバツが悪そうに微笑むアンドル。
「へんなモノ見せて悪いな」
「いやいや眼福眼福、それじゃあ昨日の服はもう乾いているだろうし、それを着て朝食食べに行くか」
流石にアンドルと学食に行くわけにもいかないので、朝から開いているレストランへと入り軽く朝食をとってから家の鍵をアンドルに預ける。待ち合わせはお昼に俺の部屋で、それまでは散歩するなり好きにしてもらう事にした。
それからやはりスマホを持っていないという事で、買い物リストに加えておいた。
今日から本格的に授業が始まった。
社会人になって、ちゃんと勉強していればなんて事が多かったのでしっかりとノートを取る。特に使わないだろうと思っていた歴史系や数学系はなんだかんだと覚えていた方が得だ。
歴史に関してはゲームの設定のように感じて以外と苦に感じなかったので、これはかなり僥倖だった。
授業も終わり、午前授業で終わるのは今日まで。今日もコウセイに誘われると少し断りづらいなと思っていたがその心配も無かった。
「今日は道場で稽古の日なんだ」
そう言うと嬉しそうに帰って行った。
それにしても道場なんてあるんだな、行ってみるのも面白いかも。
そんな事を考えながら帰路につき、自室へと戻って来た。
インターホンを鳴らすと中からアンドルが出てきて、俺の顔を見てロックを外して中に入れてくれる。
「それじゃあ早速だけど行くとしようか」
時間が勿体無いので実はタクシーを呼んである。こういう行動がお金持ちになった気にさせてくれる。まぁ本当の御金持は運転手さんがいるわけだから、庶民の思う金持ち感覚って事なんだろうけどさ。
……でも俺ってこの世界じゃ庶民って言えるのかね?
タクシーはアンドルの案内で進み、一軒の大きな家具店へと到着した。
アンドルは慣れた手つきで俺を案内してくれた。この店で売っている家具はシンプルでいて少し意匠が凝らされている物が中心で、とても落ち着いた空間になっていた。
俺も色々と気に入った家具があったので買ってしまった。お金に余裕があると欲しいなと買ってしまう。今から我慢を思い出さないとな。あるだけ使ってたらヤバそうだ。
ベッドが売られている所に布団等も売っていたのでセットで購入。今日の夜に届けて貰えるように頼む。二人で宅配カードを作成して、これで判子の代わりが完成だ。
次は日用品店。コップやお皿等も買っていき、服屋でアンドルサイズの服を購入。獣人用のちゃんと尻尾穴が開いている奴だ。
その後洋服などを持って一時マンションに帰宅。その時にもう一つ鍵を作ってもらった。一応生体認証とカードキーと普通の鍵の三段階ロックになっているので正直ちょっと面倒ではあるけどな。
洗濯機を置く場所等の広さを図り今度は電気屋へ。
「それでは此処にカードを翳してください……はいありがとうございました」
買い物が終わり、今丁度搬入も終わった。時刻は既に夜の九時になってしまった。こんな時間まで申し訳ない。だがお陰でなんとか家具も揃った。明日はアンドルにお金を渡してスマホを買って来て貰おう。
買って来てあったご飯を食べて漸く一息ついたが、明日も学校だ。
最後に獣人用の乾燥機が稼働している所を見せて貰って……なんと人間でも安心な出力があったのでそれを試してみる事になった。
熱くならない程度の温風が体全身に吹き付けて水をはじいてくれる。これはちょっと気持ちい。
獣人の場合はもっと高出力で毛が凄い事になっていたが、最後に整えて終わりだ。後は各々決めていた自分の部屋に引っ込んで寝る事になったが……ちょっと寂しく感じてしまうのはなぜだろうか。
「はぁ今日から午後もあるのかぁ、面倒だな」
「と言っても選択授業だろ?」
「選択でも授業は授業」
三人で昼食を食べながら、午後について話す。
前世の一般的な高校とは違い、午後はスキルによっての選択授業になる。俺の場合は盾魔法を伸ばすための授業だから、前衛系の授業に顔を出してみようと思っている。もし自分のスキルに合わないと分かっても、五月までに本登録すればいいだけらしいので、他にもいくらか確かめてみる手筈だ。
コウセイと共に前衛授業へと赴く。
そこそこ大きな教室に既に多くの生徒が席についていた。どうやら結構人気な授業のようだ。
昼休みが終了のチャイムと共に、イケメンの教師が入って来た。
……成る程、人気の一旦はこれって事か。
イケメン先生がこの授業の流れを説明してくれる。先ずは基本知識、自分が戦闘に置いて担う役割の説明。それから武具によって別れて先生が回りながらアドバイスするという運びになるらしい。今日は説明だけだが本来はサポートの先生が何人もいるらしい。
話を聞いてみて、盾は純粋に盾を持っての行動というので、なんとなく俺の盾魔法とは違っていた。次の時間は違う授業の説明にもぐりこむ事が決定した。
コウセイはそのまま授業を受けるそうなので別れる事になった。
ふらりと魔法系の授業を二つ程見たが、片方は正解だった。
魔法の中でもサポート科というところが俺に合っていた。先生も笑顔が優しそうな人間の先生だったので、暫定的に此処にする事に決めた。
だが生徒の数がかなり少ない。ある意味特殊学科なので仕方ないと言えば仕方ないか。説明を聞いているのが俺を含めて五人しかいないのは、ちょっと少なすぎるとも思うけどな。
次の時間は誰も現れなかったので、先生と一対一になってかなり気まずい。
「ふふ、同じ方しかいないようですから、説明は辞めておきましょうか。先ほども説明したようにこの戦闘サポート科はかなり限定された学科ですが、宜しいのですか?」
「はい、ちょっと他の学科だと合わない気がしまして」
「……良ければそのスキルの一旦を見せて頂いても?」
「いいですよ」
俺は盾魔法のスキルを発動させる。
すると盾が少し離れた場所に数秒展開して消える。
「珍しいスキルですね。成る程一時的にデコイを作るような物ですか。それならば確かにこの学科が相応しいでしょうね」
にっこりとほほ笑む先生に俺も一つ頷く。
「偶に薬草系や回復系、エンチャント系の子が間違って見に来るので、間違いならば道を正さなくてはなりませんからね。ですがどうやら君は間違っていなかったようです。私の受け持ちは限定されているので授業よりは大学のゼミに近くなりますが、イメージできますか?」
「はい大丈夫です。逆にちゃんと見て貰えそうでラッキーですよ」
「フフ、そうですか。元気でやる気のある子は歓迎ですよ。それでは折角ですし検証から始めて見ましょう」
「検証ですか?」
「えぇ、どうやったらレベルが上がりやすいか、ですよ。展開し続けていることでレベルが上がるのか、攻撃を加える事でレベルが上がるのかね」
「分かるのですか?」
「私のスキルはそう言った物なのですよ」
おぉそれってかなり便利なんじゃないの! 経験値移動が見える、どうやったら効率よく強くなれるか分かるなんて、普通にチートだろ! 俺が言えた事じゃないけど!
……ん? でもそんないいスキルなら誰もがほっとかないだろ。でもここで一教師に収まっているという事は、かなり限定的なスキルや人物に限るという事か。
「もしや私のスキルについてあれこれ考えていますか?」
「えっ、あぁすいません、顔に出てましたか」
「ふふ、いいのですよ。私のスキルはかなり限定的なのです。先ず戦闘系である事、純粋な武具系でない事、エンチャント系でない事、回復系でない事、そして主要属性魔法で無い魔法である事」
「……かなり限定的ですね」
「えぇ、特に魔法は主要属性持ちがほとんどで、君のように特殊魔法と呼ばれる物の使い手は毎年一人いるかいないかです。しかし学校で教えられないスキルがあってはならないのです。ですので私は此処にいるのですよ」
「成る程、理解しました。それじゃあよろしくお願いします、あっキョウガと言います」
「こちらこそよろしくお願いしますね。キョウガ君ですか、いい名前です。私はヘイリーと申します」
優し気な笑顔で手を差し出されるので、俺もそれを取って握手をする。先生の手は思ったよりもしっかりとしていた。服装はゆったりした物を着ているから分からないけれども、もしかしたら細マッチョ的な感じなのかもしれない。
少し長い濃紺の髪を揺らし一歩後ろに引くヘイリー先生。そして何やらごそごそとあちらこちらを探し始めて、漸く目的の物が見つかったのか戻って来る。
手に持っているのは短剣だった。……身の危険はないよな。
「すみません怖がらせてしまいましたか。これで盾に攻撃してみようと思いまして」
「あっそうですよね、すみません。お願いします」
「いえいえ、それでは始めますよ」
「ふむ、やはり敵意を持った一撃を受け止めるのが一番経験値がよさそうですね。これからの授業はレベルが上がるまでこれを行いましょう」
「分かりました、お願いします」
「いいえ、私も折角の生徒ですから、嬉しいのですよ。去年は一人もおりませんでしたから」
しばし目を瞑り何かを考えながらそう零した先生は、直ぐに先ほどの笑みに戻る。
「それでは今日の授業はこれまでとしましょうか。もう終わりの時間ですから」
優し気に微笑みながら時計を見る先生につられて掛けられている時計を見ると、確かに授業終了の時間だった。思ったよりも熱中してやっていたようだ。
「それじゃあ先生また明日」
「はい、お待ちしてますよ」
手を振ってくれたので俺も振り返して家に帰る。
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