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第7話
「帰って来たかご主人」
「ただいまー、スマホ買えた」
「おう、これを買ったぜ! じゃあ連絡先登録だな」
SNSと一応電話番号も記録させて、これでオッケイと。
「えーっとそうそう、それじゃあ俺は引っ越し業者の所に行くけど、アンドルはどうする? お金なら幾らか渡すけど……お酒はだめな」
「……あぁ酒はしばらくいいぜ。オレもついてく、一応護衛にな」
「護衛ってそんなに危ないの?」
「いや、普通に過ごしてる分には大丈夫だぜ、普通の市民ならな」
「なんか含みのある言い方だね」
「市民から中級市民になると、従属者の取り合いなんてのもあるからな、面倒だったらありゃしないぜ」
「……それって襲われたり人質を取られたりするの?」
「いや、そう言うのは認められてないぜ、天使共がしっかり見張ってるな」
「……それならその時になったら考えればいいか」
でも一緒に行けるなら行こう。一人でゆっくりするのも好きだけど、誰かと話しているのも嫌いじゃないしな。
という事で引っ越し業者さんに話しをしに行くと、直ぐにやってくれるというので梱包をしてもらって引っ越しが完了してしまった。なんでも、アパートの一室くらいなら直ぐに終わるらしい。見た感じ獣人が多かったので、力に任せてせっせと終わらせてくれたようだ。ありがたい。
「んー、折角ならなんか取るか。何か食べたいのある?」
「それならピザだな」
「宅配ピザか、いいね。俺もかなり久しぶりだし、それじゃあ頼むか」
翌日、昨日は久しぶりの宅ピザに盛り上がってテンションが少し上がり、その気分のままちょっぴり夜更かししたので眠い。
「おーす」
「おはようコウセイ」
コウセイも眠そうに席に着くと、くたりと机に突っ伏した。
「あの後いい授業見つけたか?」
「うん、ヘイリー先生って言う先生の授業が良かったよ」
「そっか、俺も昨日は最後に実戦があって楽しめたよ。でもそのせいで道場に行って自主練して寝不足だ」
「頑張るね」
「まぁな。俺はダンジョンでバンバン稼いで、ずっと腹いっぱい食べるのが夢なんだ」
「格闘家とかじゃないんだ」
「……パフォーマンスとかは苦手だ」
成る程、それなら戦って下に行けばいいダンジョンはコウセイにとっては楽なわけだ。
それにしても腹いっぱい食べるのが夢って、その胃袋には一体どれだけの量が入るというのか。もし彼と食べ放題に行くならば相手のペースに持っていかれないように注意しないとな。
「キョウガは夢とかあるのか?」
「夢? 夢かぁ」
そういや従属者を沢山持つのは保身からだよな。って事は俺の夢ってのは無いのか。というかこの世界での目標が無いのか。うーん、それはちょっと寂しいかもな。こんな世界なんだし、目標の一つでもあるといいんだけど。
「無いのか? まぁそれもいいけどさ、やっぱハーレムとかか?」
「ハーレム?」
「そうそう上級市民に与えられてるやつ」
へー、そのあたりはまだ調べていなかったけれども、合法ハーレムが作れるのか。それならば目指す人はいるんだろうな。
「コウセイはどうなんだ? ハーレム」
「そりゃ夢だよな。でも無理だろ普通に考えて」
そう言う物なのか。うーんリサーチ不足だな。ハーレムね、帰ったら調べてみるか。
「まっ、でも中級市民くらいにはなりたいよな」
「そうなのか?」
「だって中級市民になれば男同士でも子供が出来るだろ? 結婚した奴との子共なら欲しいんだよ俺は」
男同士で子供ってどうやって作るのか……そのあたりも色々調べないといけないな。
でも中級になると男同士の子共が出来て、上級になるとハーレムが出来るっと、頭の片隅にメモしておこう。
「朝からなんの話してんだお前等」
「お、シリルおはー」
「おはようシリル」
「ん」
「ほら、将来の夢的な事を話してたんだよ。シリルにはあるか、将来なりたいものとか」
「……金持ち」
「そりゃ誰でもそうだろうけどさ、もっと具体的によ」
「研究者」
おっ、それはちょっと意外だな。もっとバリバリの戦闘系かと勝手に思っていたけれども、研究者か。……割と似合うかも。
「研究者か、なんの研究するんだ?」
「武器だ」
「へー武器弄るの好きなんだ」
「あぁ……でも家はそんなに金ないからな、大学は無理だ」
うーん世知辛い話を聞いてしまった。
スマホを取り出して奨学金的な物が無いかと調べてみたが、そう言った制度は無かった。だが天使に力量を認められれば金額免除になる大学もあるらしい。勿論誰かに研究を認めて貰ってお金を出してもらうのもある。
「研究発表はしないのか?」
俺が思った事をコウセイが尋ねるので、俺もうんうんと頷いて置く。
「材料も買えない、学校の資材じゃ現界がある、実験の伝手もない」
「あー……研究者って色々大変なんだな。作った武器の性能検査くらいなら手伝えるけどな」
「うーん俺も何か手伝えることがあったら言ってくれれば」
流石に此処で金銭援助はなんか怖いしなお互い。まぁでも何か一本でも作って見せてくれて、性能が良かったら俺ってばれないようにアンドルに接触してもらって研究してもらう事は出来るか。別に同情じゃないけど、同情って思われるのもなんか上から目線で嫌だしな。
と言うのも、家には丁度武器を振るえるアンドルがいるからな、アンドルに強い武器を持たせたらまさに鬼に金棒!
そんな事を思っている時だった。
「……ありがと」
な!
デレタ! コイツ、クーデレ? ツンデレ? なんでもいいが可愛いかよ!
コウセイも少し目を見開いて驚いてから、ニシシと笑っている。俺もにっこりしてしまった。
「……」
当人は無言で窓の外を眺めている。ちょっと顔が赤い気がするので恥ずかしかったのだろう。
「資材ってどんなのが必要なの?」
「そういやそうだな、もしかしたら伝手があるかも」
「……基本は普通の武器と変わらない、金属や魔石、後は歯車なんかの部品もあればいい」
魔石? そんなものがこの世にはあるのか。
スマホで調べてみると、ダンジョンの魔物がドロップする物らしい。武器に使われたり日常生活にも使われるらしく、ダンジョン探索者が多いのはその分需要があるから、らしい。
成る程ねー、魔石なら別になんとかなるかもしれないけど、他の部品とかは工場じゃないと無理だろうしな。今の俺にはどうしようも無いし、そもそも当人だってどうにかなるとも思ってないだろう。
「……流石に伝手ないわ」
「学校の資材だと一本も作れないの?」
「いや、一本ぐらいなら作れるが、それで認められるほどの物は出来ない」
「うーん、それなら一本出来たら貸してくれないか? 知り合いに武闘派がいるもんで、彼が認めればもしかしたらね……その代わり契約して他の所には売れないようになると思うけど」
「はっ、本当にそんな奴がいるなら契約するさ。俺は今金が必要だしな」
「じゃあ出来たら貸してね」
「……あぁ」
「それで、なにそわそわしてるのコウセイ、お手洗いならまだ間に合うだろ」
先ほどからそわそわし始めたコウセイに少しだけジト目を送ると、ピクリと耳が揺れる。
「いやトイレじゃないからな! その、武闘派って強いのかと思って、出来れば戦ってみたいなと。だけどそれってキョウガを利用してるようでなんかやだろ?」
「律儀だなぁ、じゃあ一本出来たら一緒に行くか」
「いいのか!」
尻尾がかなり揺れているが気が付いていないのだろうか。シリルがちょっと呆れた目で見ていたことに気が付いたのか、少し視線を逸らす。
「ありがとう、俺は強くなりたくてな、そっち方面の話になると食いつく……」
「十分わかったよ」
「だな」
今日の授業は歴史国語数学理科選択選択となる。何かの呪文のようだが、この呪文を唱えるのも久しぶりだ。それと、苦手だった英語の教科は無くなっていた。というか外国語が存在しない。なにせ世界はこの街一つだけだからな。
午後は二人と別れるが、授業が終わったら落ち合う手筈になっていた。
ヘイリー先生と二人きりの授業をこなし、待ち合わせ場所に行くと既に二人が待っていた。
「ごめん、おまたせ」
「いや俺の授業が早く終わっただけだから」
「こっちもきりが良かった」
「そっか、それでどこ行くの?」
「ダンジョン市でいいか?」
「ああ」
「ダンジョン市?」
「あれ、キョウガは行った事無いのか? ダンジョンで出た珍しい物が出店されてるんだよ」
「へー、行った事無いよ、面白そうだ」
そんな場所があるんだなぁ。もっと街を探検してみるのも面白そうかな。でも先ずは二人との放課後を楽しまないとな。
電車で二つ程行くと目の前に御座が広げられ、露店が開かれている場所があった。
「今日も賑わってるなー」
「此処がダンジョン市か、確かに賑わってるな」
「安い掘り出し物欲しい」
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