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第8話

「このナックルいいな! ……たけぇ」  武器屋を冷やかせばコウセイが落ち込み。 「この部品……はぁ」  素材を扱う店に行けばシリルが落ち込む。  露店を冷やかしながらあれやこれやと話す時間は、俺にとっても楽しい時間だった。  露店には本当に様々なモノが売られていた。ダンジョンから出てきた一見使い道の無さそうな魔道具を、言葉巧みに買わせようとしてきた人もいたが、幸い俺達は冷やかしで客ではない。……売り手にとっては最悪か。  流石に俺も二人の物欲しそうな顔の前でホイホイ自分の買い物をするのが気が引けて、どんなものがあるのかを確認するのに時間をつかった。 「はぁ、さっさと強くなってあの武器買いたいな」 「……」  夕暮れ時、三人で電車に乗って高校の最寄り駅に帰って来る。  途中まで一緒に行き、最後は分かれる。皆この近くに家があるようだ。  俺もマンションに帰り、制服を脱いでパーカーを着る。 「帰って来てまた出かけるのか?」 「ちょっと欲しい物があってさ」 「もう夜だしな、オレもついてくぜ」  それは有難い。安全とは言っても何が起きるか分からないしな。特に夜は人目を忍んで……なんて事もあるかもしれないし。  今度は二人で電車に乗り込み、先程までいた場所に舞い戻って来る。 「確かこっちだ」 「ダンジョン市か、久々に来たぜ」  アンドルが少し楽しそうにしている気配がするので、以前は結構足を踏み入れていたのかもしれない。  目的の露天までたどり着いたが、丁度御座を仕舞っている所だった。 「あー……」  一歩遅かったか。まぁこればっかりは仕方ない。もう夜だしな。諦めてまた後日に出会える事を祈るか。 「なんだ? あの露店に要件だったのか? ちょっと待ってな」  アンドルは素早く露天商に近づき、一言二言話すと俺を手招きした。俺も速足で露店まで向かう。 「買ってくれるならいいってよ」 「ありがとうございます!」  ナイスアンドル! こういう時に経験者がいるとやっぱり有難い。俺だけだったら渋々帰宅していただろう。まだ売っているか聞く事さえしないで。 「それで、何を買ってくれんだ?」 「仮装の魔道具をください」  実はこの人、言葉巧みに俺達に魔道具を売ろうとしていた人だ。だがこの仮装の魔道具だけは余り力を入れておらず、ある程度姿を偽れる事、友人とのパーティーで仮装をして楽しめますよくらいの物だったのだ。値段もかなりお安い。  店を開けさせてまで仮装の魔道具を買う事に少し驚いたようだが、売れ行きの悪い商品だったらしく、買ってくれて感謝までされた。……値段は一円たりとも負けてくれなかったけど。 「へへありがとよ、また何かあれば寄ってくれや」  そう言うと露天商は上機嫌に去っていった。 「ご主人よぉ、そんなもん何に使うんだ?」 「仮装の魔道具なんだから仮装するために使うんだよ」  帰り道で訝し気に聞かれたので、ニヤリと笑っておどけたように返す。 「パーティーでも行くのか?」  肩を落として呆れたとでもいう様に適当に答えるアンドル。だがわざと態度で大げさに示しているので、俺のアクションに乗ってくれたのだろう。気のいい奴である。 「まぁ稼ぎに行くときに使おうと思ってさ。どうせ皆自己顕示欲滅茶苦茶高いから、自分の姿を偽って稼ぐなんて考えもしないだろうけどさ」 「そりゃそんなもの好きは早々いないだろうぜ」 「でもまぁそれをやろうと思うんだよ。あんまり注目され過ぎて変なトラブルになると嫌だし。それにそこまで隠すつもりはないから、知りたければ調べて直ぐに分かる程度にするつもりだ。そうすれば、俺にそこそこ興味を抱いてもその程度の人なら姿で騙せるからな。調べてまで俺に言いたいことがあるなんて、警戒のボーダーラインが出来るのは個人的にいいと思ってさ」 「そんな考えもあんだな。……俺にはあんまり理解できないが、そう言った使い方なら割かし有効かもしれないぜ」  そうだと有難いな。  なにせ以前カジノ行ったときは他の客と一緒にゲームすると結構見られていたからな。見られるだけならまだしも、そこから俺の容姿を覚えられて~なんて事になったらたまらないし、カジノに行くときは変装して行こう。  翌朝、俺はアンドルの従属者カードに幾何かのお金と、スペアキーを渡して自由行動をしてもらう事にした。アンドルは本当にいいのか聞いたが、正直やって欲しい事も無いし不労所得があったとしても殆ど税金として持っていかれるので、今バリバリ稼いだところでたかが知れている。  学校に行くと、いつもよりもテンションが下がった二人が既に教室にいた。 「おはよう、どうしたの?」 「昨日見た物が忘れられなくてな」 「俺もだ……」  欲しいけど手が出せない憂鬱にさいなまれているのか。確かにバイト無いから高校生って稼ぐの難しいよな。 「稼いだら税金に引っかかるしね」 「いや、月30万までなら税金はかからないからな……そもそもそんなに稼げるか分からないけど。でも従属者買ったら別か」  へぇそれは知らなかった。じゃあ高校生でも月30万までなら、安心して稼ぐ事が出来るって事か。うーん、ものすごく稼いでいる人やその逆の人を除いた平均月収が知りたい。  でも従属者がいないって事は、自分の力は弱いって言ってるような物だからな。でもきっとそれでも従属者に成るよりはいいって考えの人は大勢いそうだけど。 「そういや二人は明日からの土日は何かすることあるのか?」  コウセイが気分を変える様に話題を一気に転換してきた。 「俺は設計図作成だ」 「んー俺はなにしようかな、買い物とか? コウセイは?」 「俺は道場だな。さっさと師匠に許しを貰ってダンジョンに行って金を稼ぐ」 「師匠の許しが無いといけないんだ」 「俺が師事してるとこはそうなんだよ。死なないと言っても精神的に危険だから、出来るだけ死なない方がいい。ならばある程度の強さが無ければダンジョンに行くことを禁ずる。破れば二度とこの道場に入る事まかりならんってな」  ……死ぬ痛みを味わうってのは、苦しいからな。その師匠さんの言ってることも間違いじゃないだろう。  ただ金銭面を考えると、どうともいえないのが考えどころだな。なにせバイトが無いからな、働く場所が限定的になり過ぎている。  授業が始まってからもノートを取りながらぼんやりとバイトの事を考えていた。だが結局いい案も出ないまま学校が終わってしまった。  簡単に言うと情報が無さすぎるし、もし従属者に成らなくてもバイトのような形態があればいいのだが、それはこの世界の求めている物とは違うだろうから、天使によって許可が下りる事は無いと思う。  気が付いたら家にいた。  気にしても仕方がないので、この事については一旦放置しよう。そのうちいい案が唐突に浮かんでくるかもしれないしな。   部屋に入り着替えを済ませながらパソコンを起動させて、カジノカードと市民カード、それに御主人カードを読み取らせていく。最近散財していたからな、どの程度金額が残っているのか確かめておきたかった。  結果はそこまで減っていなかった。いや、増えていた。  税金関連が幾らか免除されており、調べたら従属者一人につき30万ほど安くなるようだ。しかもAランクだと100人分なので、3000万ほど免除された形になる。  勿論税金がゼロになる事は無く、ボーダーラインは設けられているので、従属者を沢山持ったからと言って税金が完全免除される事は無い。 「……んーでも税金は出来るだけ下げたいよな」  因みにボーダーは本来支払うべき税金の半額まで下げる事が出来る。今の俺は所得税90%の支払いだから、実質45%まで下げる事が出来るって訳だ。  例えば俺が月100憶稼いだとして、払うべき税金はぎりぎり90%。手元に残るのは10憶だ。  だが半分免除ならば45憶支払えばいい。残りの55憶は俺が税金を支払った後に残った金額10憶と45憶分の免除費って訳だ。45憶円分の免除費を貰うためには15000人の従属者が必要となる。全てAランクでそろえたとしても150人は必要になる計算だ。  ……うんこれはないな。諦めよう。でもこれに近づけるようにすることは大切だ。……ただ100憶1円以上稼ぐと92%に上がるからな、そのあたりの見極めも必要だろう。  だが流石に今90%丸々持っていかれるのはちょっと抵抗したいところ。なのでまたガチャでもやりに行くか? だがガチャをやるならばもう少しだけカジノで稼いでから行った方がいいだろう。という事は今からカジノか、折角だから昨日買った仮装魔道具を使ってみよう。  外行きの私服に着替え終わり、リビングに置いてある魔道具を手に取った所で、アンドルが帰宅した。 「おかえり」 「あぁ只今」  アンドルの洋服は泥のような汚れが付いている、一体どこに言っていたのか。  俺の視線に気が付いたのか、少しバツが悪そうに視線を泳がせた。 「折角買ってもらったのに悪いな……」 「あぁそう言う事? それなら別にいいけど、何処に行ってたの?」 「ダンジョンだ、それでこれを取って来た」  背負っていたリュックを俺に渡してくれるので、中を覗いてみる。中には青白い色をした宝石のような物が幾つも詰められていた。 「魔道具の魔石だぜ、あった方がいいと思ってな」 「取りに行ってくれてたの! そっか電池式みたいなもんだよな、ありがとう助かったよ」 「いやいいんだ」  それで服が汚れてしまったのか。 「でも鎧が無くて大丈夫だったのか?」 「あぁ剣だけ貰った金で買わせて貰ったからな、攻撃なんぞ受けるような階層に行かなかったからな……だが汚してしまった。今度からは安い汚れてもいい服を着ていくぜ」 「それなら防具も買っていいんだけど」 「ご主人はちょっと優しすぎるぜ? ダンジョン行ったって死なないんだ、だいたいのヤツは防具代なんてケチる」 「それで効率が落ちるなら考えモノだと思うけど、まぁいいよ、どうせこれから稼ぎに行くから、防具代も一緒に稼いでくる」  さて、それじゃあ魔道具を使おう。見た目はフラフープに器械のような物が取り付けられている物だ。  器械のボタンを押して、輪っかが全て光に包まれたら輪の中に入り、両手で掲げる様に持つ。まるでスーパーの生鮮食品が置かれている保冷庫のように上から白い煙が俺を隠して……数秒後には止まった。  鏡を見るとあら不思議、顔や身長はそこまで変わっていないが、俺の頭に獣耳そして尻尾が生えているではないか! 耳は猫耳っぽいな、おぉ自動で動くのかこれは凄い。 「どう? 人間には見えなくなった?」 「そうだなかわ……仮装としては上出来じゃないか?」 「でも途中で服買わないとな。あっ、稼ぎに行くのは着いてこなくてもいいよ」 「いや、一応護衛としてついて行くぜ」 「……行くのカジノだけど、大丈夫?」  カジノがトラウマになっていたらわざわざ一緒に行って貰う事もないしな。だがその心配は無いようで、苦笑いをしながら大丈夫だと頷いた。  それじゃあ行くか。

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