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第13話

「ん? なんだ、寝不足か?」  シリルが呆れた声で俺へと問いかけ、着席する。 「寝不足、ちょっとな」  幸せな寝不足なので後悔は無いけれども、今度からは翌日が休みの日にハッスルしてもらうとしよう。  あぁそれにしても思い出しただけで勃ってくる、学校にいる間は思い返さないようにしないと。 「おす」  普段よりも元気の無い挨拶に横を向くと、少ししょぼくれたコウセイがいた。 「おはよう、何かあった?」 「ん? あぁちょっとな。俺の事じゃないけどな。通ってた道場の師匠が消えて道場が臨時で閉まっててな。師匠ももう歳だから、病気とかじゃないと良いのだけどな」 「それは、心配だな」  寄る年波には勝てないしな。……いやもしかしてこの世界だとそんな事ないのか? 不老長寿か、ちょっと気にはなるな。特に歳を重ねていく部長や課長なんかを横目に見ていた俺は特に。俺もこうなっていくのかぁと憂鬱だったからなぁ。 「はぁ」 「ため息ついても仕方ないだろ、自分で修行もできないのか?」  冷ややかに聞こえるが、それが心配しての言葉だという事はなんとなく分かった来た。勿論コウセイも分かっているので、「そうだな、出来る事をだよな。ありがとう」と返した。  だが翌日、昨日とは違った憂いの表情でコウセイがやって来た。 「昨日道場貸してもらえないか話にいったんだ、一応師範代はいるしな。でもその師範代も行方知れずになったらしくて。一体どうなってるのか……」  連続失踪か、それはもう事件だろ。警察に連絡した方がいいんじゃないのかな? 「一応置手紙はあったらしいんだ、師匠を探してくるって。でも道場に住んでる先輩の話だと、師範代は師匠が何処にいったか分かっているみたいで、変な取り立てが来たらいないって答えろって」  ええ……もはやそれは夜逃げでは? 若しくは夜逃げした師匠さんとやらを追っていったか。なんにしろ巻き込まれるのは得策とは言えないな。 「ほとぼりが冷めるまで近づかない方がいいと思うな」 「流石に俺もそう思うよ。だけど心配なんだよ」  どの程度心を寄せていたか分からないからなんとも言えないけれども、折角仲良くなれたのに変な事件に巻き込まれて学校に来れなくなりましたじゃあ寂しいよな。勿論コウセイの事は心配だけど。 「見に行くか?」 「「え?」」 「変な事言ってないだろ、変顔見せんな」  シリル面倒見いいんだな。気を許しかけてるって事かな? それなら折角の提案は無碍にもできないよな。 「そうだな、一旦見に行ってみるか」 「二人ともありがとう!」  放課後、三人で道場へと向かった。  辺りは住宅街のようで、家が立ち並んでいる。その一角に少し広い古風な所謂ザ道場! という風体の建物があった。  扉は開いており、敷地内には難なく入れたが、その先の玄関は固く締められていた。 「勝手に入ったけど、いいの?」 「此処までなら大丈夫だ、取り合えず裏手に回ろう」  裏は居住区に続いてるらしく、そちらには小さな玄関があった。だがその前には一人の男と、面倒くさそうに対応している青年がいた。 「ですから、期限はとっくに切れています! 即刻お支払いを」 「そう言っても先日隅から隅まで調べて今は師範も師範代もいないと分かってもらったはずだ。その借金は道場の物でなく師範個人の物なんだろ、だったら此処にはもう関係ないだろうが!」 「いえ此方を売却……」 「そう言うやり取りは本人同士天使の介在あってだろうが! さっさと払わせたけりゃあ本人連れてこい!」 「……」 「……」  飛び込める雰囲気じゃないな。 「戻ろう」  小声で二人に提案すると、二人とも一つ頷いてくれた。  道場から少し離れた公園でベンチに座る。 「随分立て込んでるな」 「……師匠どこにいったんだろうか」 「夜逃げなら直ぐに見つかるだろ」  まぁ国をまたぐ事も出来ないし、夜逃げは天使が許してくれないだろうな。きっとよくわからない力を使って引っ張って来るに違いない。 「何にせよ、今はそっとしておくのがいいと思うよ」 「巻き込まれて痛い目見たいなら別だがな」 「そうだな、しばらくは道場に行かない事にするよ」  そう言っていたコウセイだったが、翌日は学校を欠席した。  きっともう一度見に行って何かに巻き込まれたか、それとも師匠さんの居場所に気が付いたか。どちらにしろ、本人が決めた事だ。  ……そうは言っても探したくなるのが性か。だがなぁ、うーん、家に帰ったらアンドルに相談してみるか。 「キョウガ君? 大丈夫ですか?」 「あ、すいませんヘイリー先生、ちょっと考え事を」 「ふふ、そのようですね。ですが今は授業中です、集中してくださいね」 「すいません」  午前中も同じことをぐるぐる考えていたが、結局午後まで同じことを引っ張っている。この性格は治さないとと思ってはいるんだがなぁ。 「ではもう一度確認しましょう。明後日の課外授業に関してです。キョウガ君のスキルは必要経験点が少ないのか、レベルが低いと言ってもかなりの成長スピードです。ですのでそろそろ実地訓練も入れていきましょう。先ずはお試しで明後日ダンジョンに入ります。道具等は私が準備をするので手ぶらで構いません」  ……必要経験点が低いんじゃなくて、経験値獲得が上昇してるんだよな。まぁ流石にそこまでは先生に言ってないからな。そう思われてしまうのも仕方ない。 「では今日の授業は此処までです」 「今日は早くないですか?」 「フフ、悩める生徒の悩みを聞くのも教師の定め。私に話せる範囲で力になりますよ。それではお茶でも用意しましょうか」  先生は優しく微笑みながら、俺に椅子へ座る様に促した。  いい先生だな、勿論こういうのがうざったく感じてしまったり余計なお世話に感じる人もいるだろう。だが俺にとっては、有難い申し出だった。 「――成る程、友人の悩みを解決してあげたいという事ですね。キョウガ君は優しくて立派ですよ」  勿論全ては話せないので、友人が悩んでいて、ただ自分には何もできないがどうしたらいいのだろうかという話に留めた。 「一番やってはいけないのは、推測で自分の価値観に当て嵌める事です。分かったつもりという奴ですね。ですので情報収集から始めるのがいいと思いますが……危険な行為ならば許容できません。もし危険があるならば警察や天使に任せましょう」 「どうして危険があると思うのですか?」 「話している時にひっかかりが多かったものですから、気のせいならば判断違いと笑ってください。ですが本当に危険があるならば、だめですよ」  口元は笑っているがすっと細められた目に気おされて、一つ頷く。怒ったら滅茶苦茶怖そうだ。 「ふふ、いい子ですね。では少し早いですが終わりにしましょうか」 「分かりました」 「気を付けて、帰ってくださいね」 「はい、ありがとうございました」  教室を出てほっと息を吐く。危険な事はしない、もう少し待ってみてコウセイが学校に来なかったらルートさんに相談してみよう。  先ほどよりも軽くなった足取りで家に帰った。 「……キョウガ、ダンジョンには俺もついていけないのか?」 「え?」  今日の夕飯はハンバーグだった。しかもかなり旨い。目の前の黒いエンプロんを着ているアンドルが作ってくれたものだ。彼はずっと自炊していたらしく、料理は普通に上手かった。なのでこうして作って貰う事になったのだ。 「ダンジョンは死なないといっても危険が付き纏う。それなら護衛として一緒に行けないか? ダンジョンならある程度俺に分がある。キョウガは絶対に傷つけさせないぜ」 「ありがとう、そうだな、先生に聞いてみるよ」 「そうしてくれ、俺も明日武具を受け取りに行ってくる」 「……もうできたの?」 「研究中の武装はまだらしいが、俺が直ぐにでも使えるような物を頼んでな。なんかあった時に直ぐ手に取れる場所に武具が無いといざというとき困るぜ?」 「いざというときが無いといいけど、そうだな」  さて、ご飯も食べ終わったし今日はこれから行くところがある。  一応ラフではない私服、それでもスーツのようにきっちりとしていない。私服にジャケットを羽織り可笑しくない落ち着いた服装に着替える。  アンドルも同じような格好になっているが、色気が醸し出されて見えるのは、好きな人補正だろうか?  タクシーを呼んで目的の場所を告げる。行くところは税務署だ。  25日から30日までの間に所得税を払わなければならない。この世界、政府が運営するためにお金を必要としているわけでもないので、稼いだら回収する装置として働いている。そのため、消費税等は存在しない。  更に国民保険や年金等も存在しない。自腹で治療費が払えなければ天使に借金、返せなければ従属者になる。そう言った面ではかなりシビアな世界だが。前世と違って魔法を含むスキルの存在により、そもそも手術を必要としない事例が多いので、医療費の負担は多くない。  税務署に到着して、納税カウンターに置かれている発券機から紙を受け取る。券には番号と階が書かれており、指定された三階へと向かう。  それからしばらくアンドルと話していたが、直ぐに番号が呼ばれた。この施設は一番天使が多いと言われているほどに従業員数? が多いため、そこまで待つことがないらしい。ただやはり30日のぎりぎりになると、人数が増えるとネットに書かれていた。なのでさっさと初日に来てしまったわけだ。 「今晩は、それでは市民カードと御主人カードを拝借致します」  隣のブーストは近いが、一応仕切りが成されている。それのお陰かカウンターに入って椅子に座ってから辺りの音が聞こえなくなってしまったのだ。きっと何かしらのギミックがあるのだろうが、これなら安心して収入等の話を誰に聞かれる事無く天使と行うことができるだろう。 「……キョウガ・アキヤさん。高校生ですね。今月の所得は143憶8600万円となります」  ……そう言えば100憶超えないようにしようとか思ってなかったっけ俺。まぁいいか、もうしかたない。というか最近読み込むの忘れてたな……今度からはもっとこまめにチェックしないとな。 「税率92%の適応になりますので、132憶3512万円の納税になります。こちらから実質従属者数が126人となりますので、3780万円の免税になります。ですので合計131憶9732万となります。純利益は11憶8868万円となります。それではカードに全額ございますので徴収させていただきます……完了致しました、それでは市民カードの同時更新を開始します……滞りなく完了致しました。本日はお越しいただきまして誠にありがとうございます。来月もお待ちしております」  結構取られたけど残っている金額が大きいせいでなんとも言えない気分になるな。  カウンターから出て二人無言で歩く。 「今までで一番数字が頭に回ってるぜ……」 「滅茶苦茶取られたはずなのに、残っている金額を見るとなんとも言えない」 「……金持ちだぜ、だがやっぱり取られ過ぎだな。従属者もっと増やした方がいいぜ」  それはそうなんだけどな。そうなるとまたガチャを回す事になるのかね。後はダンジョンに行ってくれる従属者をダンジョンの近くに住ませて適当に働いて貰って放置とかになるのかな……。うーん難しい問題だ。まぁ掬いなのはガチャの運営が天使って事だな。民営だったら百パーセント出禁になるだろうよ、Aランクを独り占めにしたらな。 「ちょっとした夜食でも買ってろうか」 「だな」

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