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第14話

「護衛ですか? 構いませんよ。それにしても高校生で従属者の方がいらっしゃるとは、素晴らしいですね」  そう言ってヘイリー先生が優しく笑ったのは昨日。  先生のお許しが出たので、アンドルに話しをして彼とはダンジョン前での現地集合となった。  この都市にダンジョンの入り口は四つ存在する。  だが中で繋がっており、何処から入っても全て同じダンジョンを攻略している事となる。  ヘイリー先生と電車で移動する事25分。目的のダンジョン入り口に到着した。ダンジョンの入り口は多くの人で賑わっており、彼等を取り巻くように屋台なども開かれていた。  広場は円形になっているようで、ほぼ武装した人達だ。街中では武装した人などあまり見ないので、ちらちらと物珍し気に目を移していると、一人此方に向ってくる獣人が……勿論アンドルなのだけど。  黒い皮鎧に身を包み、後ろに大剣を二本背負ったアンドルが此方に手を上げているので、俺も手を振る。武装したアンドルは、正直滅茶苦茶似合っていた。  そのまま此方に来ると思っていたが、俺の横をちらりと見て首を傾げ、かなり近くなるとぴたりと足を止めた。そしてまるで来たくないように逡巡し、ため息を吐いて近寄ってきた。 「……待たせたなキョウガ。それで、もしかしなくてもそっちのが先生か?」 「そっちのとは酷いですねアンドル君。折角久しぶりだというのに。それにしても、フフ。まさか君が従属者になっているとは思いませんでした。しかも私の生徒の、ね」  どうやら二人は知り合いのようだ。これは偶然かそれとも運が絡んでいるのか。どちらにせよ驚きだ。 「……久しぶりだな、ヘイリー。相変わらず何考えてんのか分からない笑顔浮かべやがって」 「お久しぶりです。元気そうで何よりです」 「二人はどんな関係?」 「何回か即席のパーティーを組んだことがあるんだ」 「えぇ、彼は中々に強者でしたから、パーティーを組ませていただいた時はとても楽でしたよ」 「……そう言えば、お前は変わったな」 「ふふ、あの時の目的は達成しましたからね。今はただの教員ですよ。さて、それではダンジョンに行きましょうか。キョウガ君はダンジョンカードを持っていますか?」 「持ってません」 「分かりました、それでは入り口で手続きをしましょう」  人波を超えてダンジョンの入り口に辿り着いた。ダンジョンの入り口はパルテノン神殿の縮小版のような外見で、中にはエントランスが広がっていた。その中の受付でダンジョンカードを発行してもらう。  ダンジョンカードは突破した階層が記載されて行くのも便利だが、最も重畳するのがダンジョンでのドロップを入れて置けることだ。更にこのカードを使うと一瞬で武具を装備することもできる優れものだ。  さて、ダンジョンに入る前に一旦ステータスを見るか。  市民カードを取り出して魔力を流す。 名前:恭華 秋谷 職業:高校生 スキル:『天秤は傾き続けるLv-』『盾魔法Lv3』『経験値獲得上昇Lv3』 従属者:7(126) 所持カード: 市民カード カジノカード 御主人カード 宅配カード ダンジョンカード  盾と経験値がレベル3になったので、ダンジョンの課外授業が始まった。なんでも此処からレベルが上がり難くなるが、戦闘系ならばダンジョンでの戦闘は外での訓練よりも効率がいいらしい。先生のスキルで見て裏付けはとれているので、効率よく進めるためにダンジョンに潜る。  ダンジョン内は異空間になっており、まるで外のようなフィールドもあるらしい。   現在突破されている最下層は56階で、100階まであるのではないかと言われている。  今回俺達が行くのは1~5階層だ。10階層までは草原地帯となっており、見晴らしがよく敵も弱いので持って来いなのだとか。  ダンジョンに入るには、エントランスの先にある階段を降りる。  ダンジョン、前世だとゲームや小説アニメ漫画などなど、様々なコンテンツに登場したファンタジーの王道だ。そう考えると少し期待感というか、わくわくと心が躍る。  異世界に来た実感はかなりあったが、こうした最近の流行りの異世界を味わう事が出来るというのは、別格だ。  薄暗い階段を下りて行くと、段々と明るくなっていく。  そして階段の先には晴天の下大草原が広がっていた。 「おぉ!」 「ふふ、ダンジョンに初めて入ると驚きますよね」 「地下に居るのに空があるからな、でもこの程度で驚いていたらダンジョン進んで行けないぜ」  得意げなアンドルに生易しい視線を二人で送りながら、ゆっくりと歩いて先に進む。 「一階層は初心者の為にある程度慣れた方は素通りするのがマナーです。今後ダンジョンに来るときは気を付けてくださいね」 「分かりました先生」 「……」 「何ですかアンドル君。なにか言いたげですが」 「いや、お前が先生と呼ばれているのがちょっとな、俺のイメージとの乖離があるせいで精神的によくないぜ」 「人は変わる物ですよ。おや、見てください、あそこにホーンラビットが居ます。それでは早速課外授業を始めましょうか。先ずは私が出て行って軽くヘイトを稼ぎますので、キョウガ君は盾を展開してください」 「分かりました」  にっこりと笑い一つ頷いた先生は、いつの間にか持っていたナイフをホーンラビット、角の生えたウサギの目の前に投げた。  ホーンラビットはびくりとナイフが刺さった後に飛びのき、ナイフを投げたであろう俺達三人へと向かってくる。  そこを先生が一人先行して揶揄うように避けている。  では盾魔法のスキルを発動と。  小さな盾が先生とウサギの間に現れて、ウサギは思い切り盾とぶつかり、その衝撃で盾が消える。  だがそれはいつもの訓練で想定済み、直ぐに新たな盾を出してウサギとの間に展開する。  それを何回も繰り返していると、少し体が怠くなってくる。魔力が無くなって来た証拠だ。 「先生」 「分かりました」  魔力が切れた合図を送ると、先生は素早くウサギを屠る。するとウサギが光の粒子となり、小さな魔石を残して消えてしまった。その魔石に先生がカードを翳すと、魔石が粒子になって先生のカードへ吸い込まれていく。  ……これぞファンタジー! そうそう、こういうのがやっぱりファンタジー好きな心をくすぐるよな。俺も今度アンドルと二人で来てみようかな、自分で思ったよりも楽しめている。 「では休憩にしましょうか。魔力が戻ったらまた同じことの繰り返しですね」 「はい」  魔力なんて不思議な力は、実は体力と同じような物で、使い続けるとぶっ倒れる。持っている魔力量は人によって違うが、魔法系のスキルを持っている人は持っていない人に比べて多い傾向にあるらしい。さらに魔力量が多くなるスキルもあり、魔法系のスキルと、魔力量が多くなるスキルを二つ持っている人は、ダンジョン探索に置いてかなりのアドバンテージになる。  なにせ魔力は産まれた時からほぼ変わらない。体力や精神力等は鍛えれば上がる可能性があるが、魔力はそうではない。使った分がゆっくりと回復するだけでキャパが広がったりはしない。元々最大を持って生まれてくる。  まぁ強制的に回復する魔力ポーションなんて物もあるけれども、しばし留まって休憩すれば少しずつ回復していくので、魔法系の人はこまめに休憩を取りながら探索するのだとか。  休憩中は三人で色々と雑談をしたが、アンドルにスキルは伝えていたが見せるのは初めてだったのでスキルについて興味津々に質問があった。  ……まぁアンドルにも俺のスキルはぼやかしていたからな。前世の話はしたけれども、こっちにきた経緯は神様の気紛れという事にしている。スキルを選んだなんて話はしていない。努力をしてスキルを上げて行くこの世界の人に、俺のスキル取得方法は大っぴらに威張る方法じゃないからな。  ある程度回復したらもう一度盾魔法を繰り返す。流石にレベルは上がらなかったが、先生曰く教室で行っていた授業の倍は経験値が入っているらしいので、もしかしたら直ぐにでもレベルが上がるかもしれないと少し驚いていた。普通のスキルはもっと経験値が微量で、こんなにも一気に経験値が入るのを見るのは初めてだと感心していた。  三人でウサギと戯れていたが、そろそろ時間となったので引き上げる事になった。  だが最後に先生の提案で壁を見に行くことになった。  此処が外ではなくダンジョン内であるので、この草原が何処までも続いているわけではない。その区切りが壁。  しばらく三人で歩いていると、先生が止まる。そしてパントマイムのように無にもない所に壁がある様に手が滑る。俺も触ってみたが、確かに固く押してもどうにもできない壁がそこにあった。 「壁の場所には目印があります。草原であれば下を見てください。このように草がつぶれた線が一直線に伸びています」  確かに、壁がある場所の下の草がつぶれており、それが一直線に伸びていた。 「不注意でぶつかってしまわないように気を付けてください。それでは帰りましょうか」  くるりと反転して出口に向かって歩き出した時にそれは起った。  周囲の草が風もないのに揺れ始める。アンドルと先生は少し驚いたようだったが、警戒しているようには見えなかった。  壁がある場所の一角の草が急激に伸びる。いや蔦だ、そこらに生えている雑草ではない。しかも見るからに蔦に対して大きな棘が付いており、二メートルほど何本もの蔦がせり上がり、そして薔薇が咲くと真ん中から裂けた。  そこからまるで排出されたようにぽんと一人の男性が追い出されてきた。 「……驚いたぜ、出口がこんなところに開くなんてな」 「えっと」 「取り合えず彼を運んで外に出ましょうか」  先生の冷静な指摘に俺達は頷き、アンドルに男性を担いでもらって外へと脱出した。  エントランスには医療スペースもあり、男性をそこに寝かせる。先生の見立てでは酷い披露で倒れているだけで、外傷はそこまで酷くないとの事。  それを聞いてほっと一息ついて、近くの椅子に座って先ほどの現象を聞いてみた。 「あれは通称茨の道、その出口だぜ」 「確かに茨だったけど」 「ダンジョンでランダムに発生する物です。入り口は薔薇が門のように形作り入れるようになります。中には希少な道具や素材があるので、見つけたら入る方が多いのですが……」 「通常のダンジョンよりも難易度が恐ろしいほどに上がるんだぜ。魔力も行動すると余計に消費するしな、体力もいつもより減りが早い」 「更に、今回のように戦闘不能となると排出されるのですが、排出される場所はランダムなのです。最悪茨内から茨内へ排出され続け、天使に助けられて多大な請求をされるという事も年に数回起きています。それでなくてもいきなりダンジョンに放りだされては直ぐに死に戻るでしょう。そうなれば死に戻りで所持金も減りますから、ハイリスクハイリターンな場所です」 「できるだけ入りたく無い場所ですね」 「そうですね、堅実に行くのならば避けて通るのが宜しいでしょう」  でもそうか、死に戻りしたらお金が減っているのって、ある意味治療行為なのかもしれないな。今回みたいに死なないでダンジョンをだた場合、その傷がダンジョンを出た瞬間に治る事はない。だが死に戻りをしたら傷は無い状態で復活する。所持金の何割といった計算だが、銀行が存在しないこの世界では最悪致命的なロストになりかねない。月末に取られて税金が払えませんなんて笑えないどころか泣き叫んでしまう。  そんな話をしていると、寝ていた男性の瞼がピクリと動いた。

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