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第15話

「……此処は」 「起きたようですね」 「茨から排出されたお前さんを此処まで連れてきたんだぜ、中の事覚えてるか?」 「そう、ですか。ご迷惑おかけしました。ではえっと誰にお支払いすれば?」 「おぶったのはアンドル君ですから、アンドル君でいいですよ」 「それじゃあ俺が貰うぜ」  男性は市民カードを出して、アンドルと幾らかの金銭取引をおこなった。  ダンジョンの一応マナーみたいなもので、茨から排出された人を外まで運び出すと、幾らか助けてくれた人に謝礼金を支払う。死んで多額のロスとをするよりもいいだろうという事と、手間をかけたという事を鑑みてのこの世界っぽいと言えばぽい対処法だ。 「ご迷惑をおかけしました」 「それでは私達は帰りましょうか」  これ以上此処に居ても仕方ないので、課外授業は現地解散となった。今後は放課後ずっと課外授業になるらしい。思っていたよりも経験値獲得量が多かったので、教室で時間を潰してはもったいないとの事だった。  翌日、少しだけ筋張っているいるような感覚が残った。自分の体力の無さに直面してしまった! 今まであまり気にしていなかったというか、長時間歩く事や動くことは無かったのでこの体のスペックを理解していなかったのだ。  ……そう言えばこのマンションにジム施設あったような、今後はちょっと利用するか。 「今日も休みかアイツ」  朝のホームルーム終了時に、俺の隣の席は空席だった。  シリルの呟きは普段よりも心配していると分かる声音だった。先生は一応風邪で欠席したと言っていたが、それにしてはメッセージも届かないし、それにコウセイは寮で一人暮らしのはず、ちょっとした行方不明で家族に伝わってお茶を濁している可能性もある。 「今日も真っ直ぐ帰るか?」  課外授業を終えて訪ねてくるアンドルに、寄りたいところがある事を伝える。  俺達が向かったのは例の道場だ。首を突っ込むのもどうかと思ったが、それでも俺に出来る事があるならば、折角出来た友人を探す手がかりくらいは欲しい。  裏に回ってインターホンを押そうとした瞬間扉が開き俺達は一瞬硬直する。 「あれ? 君は昨日の」  出てきたのは昨日茨の道から出てきた男性だった。まさかの再会だ。 「こんにちは」 「あぁこんにちは。それでどうしてここへ?」 「実は、コウセイ君に用がありまして」 「……コウセイは風邪を引いて家で休んでいるよ」  ……嘘つくの下手過ぎない?  引き攣っているし、何処か苦しそうな顔をしている。しかもコウセイの名前を出した時の反応。どう考えても何か知っている。いや、それどころか昨日一緒だとしたら。 「まさかダンジョンにいるのですか?」 「……何のことだ」  いるんだな。  つまり、コウセイは何かしらの情報を得て、師匠さんとの約束を破ってダンジョンに行った。そこで茨の道に入った。いや、目的の物が茨の道にあって入り、彼と遭遇した。なんかお堅そうだから、彼が一緒だったらダンジョンに入る事を拒否しただろう。  ……違うな、コウセイは彼から情報を聞き出したか後を付けたって事の方がしっくりくるか。そこで彼が茨の道に入り、コウセイは後を追ってそこで気が付かれた若しくは合流せざるを得なくなった。  もしそうなら今もまだダンジョンを彷徨っている、昨日の話に出た茨の道ループに嵌まっている可能性もあるという事か。  ……天秤を使えば救出が可能か?   あれほどの都合のいい事象を起こすスキルだ。その程度は出来ても可笑しくないだろう。 「……すまない時間が無くてね、失礼」  男性はそう言うと足早に横を通り過ぎていった。 「キョウガ、俺は反対だぜ?」 「まだ何も言ってないけど」 「キョウガは利益とか今後の為とか自分を納得させてお人好しに走るからな。そのコウセイという友達を茨の道へ助けに行きたいんだろ?」 「そう、だな。前世ではそんな事無かったんだけどな。力で奢っているのか、助けに行きたいと思う。自分を正当化させる理由はある。スキルの検証だ」  どの程度俺に都合がよく働くのか。無意識に頭の中で考えていたことが適応されるような危ないスキルだ。だがだからこそ知らないといけないとも思っている。それが正当化の理由だ。 「……はぁ。分かったぜ、俺が絶対に守ってやるよ」 「頼りにしてる」  ダンジョンまで戻って来て、アンドルはダンジョンカードを起動させる。すると先ほどの武装が淡い光と共にアンドルに装備された状態で現れた。  格好良くはあるが、視点を変えれば魔法少女のようでもある。  まぁ便利な事に変わりはない。俺も先生から支給された簡易的な防具を身に着ける。  ダンジョンの中に戻って来た俺達だったが、アンドルが少し悩んでいるようだった。 「茨の道を探すってのは意外と大変なんだぜ?」 「そのあたりは大丈夫だと思うけど」 「何が大丈夫なのでしょうか?」  後ろからかけられた声にびくりと肩を震わせて振り返る。アンドルはすかさず俺との間に割って入ってくれるが、アンドルも気づかない程に気配を消しているなんて、一体……。 「相変わらず気配を消すのは上手いぜ」 「ふふ、得意ですからね。さて、それで二人ともどうしてダンジョンへ?」  そこには先ほど別れた先生が微笑みながら此方を見ていた。だが目が笑っていないような気がする。 「キョウガ君、私との約束を覚えていますね? 茨の道へ入る事は十分危険です。先ほどの授業でも教えました、知らないとは言わせませんよ」 「……それでも入る理由が出来たので」  俺がそう言うと、威圧感が増した。思わずごくりと唾を飲み込んでしまう。普段はとてもやさしい先生なだけに、怒るとかなり怖い。 「……」 「……」 「……ヘイリー、授業はもう終わったはずだぜ。放課後は好きに遊ぶ時間だろ?」 「生徒の遊び方をある程度指導するのもまた教員の定めですよ」 「その約束とやらも契約書があるわけじゃないんだろ?」 「人と人との約束は、お互いの誠意で成り立つのですよ。キョウガ君は誓約書がないと約束も守れないのですか?」 「ありがとうアンドル。すいません先生、でも行きます」 「……強情ですね。ですが、これは何を言ってもダメそうですか。私もついて行きますよ」 「え?」 「ただし、後でお仕置きです」 「わ、分かりました」 「はぁ、それでどうやって茨の道を見つけますか? 開きやすい階層に行きますか?」 「開きやすい階層なんてあるんですね」 「えぇ、茨の道に入りたい方はその階層でうろうろとしていることが多いですよ」  さて、それじゃあ検証を開始しよう。  俺は天秤を発動させた。しかし何も起こらなかった。  ちゃんとネックレスの重みはある。ならばコウセイを助けられたらいいなと故意に願ってみる。だが何も起きない。  そう言えば、まるで偶然のように連鎖して運のいい事が起きたな。ならば適当に壁伝いを歩いて行くことにするか。 「えっと、取り合えず壁伝いに歩きましょう」  先生は少し首をかしげたが、俺達について来てくれた。  それから五分後、俺達の目の前には茨の道の入り口が開いていた。 「一階層で開くとは……キョウガ君何かしましたね?」 「運が良かっただけですよ」  それだけ言って中に入る。いばらの道の内部は、巨大な迷路だった。しかも周囲の蔦が蠢き道筋が随時変わっていく。  だから俺は目の前で変わった道へ坦々と進む事にした。  途中強そうな魔物が出てきたが、アンドルが斃してくれた。  茨の道は何処から入っても同じ迷宮に来るはずなので、進んでいればコウセイもいるはずだ。 「やはりアンドル君がいると楽ですね」 「そうなのですか?」 「えぇ、先ほど出てきた魔物、あれを普通に相手どれば此方の損害はかなりの物になりますが、彼は二刀両断してましたからね」  全部同じく屠られていくので、どれが強いというのは分からないが、凄い事らしい。俺と言えばアンドルの戦闘姿が格好いいというところにしか目が行っていなかった。  しばらく進むと目の前にぽっかりと穴が開いており、急な階段が設置されていた。 「……一度も突き当りにぶつかる事も無く階段ですか。ふふ、異常事態ですね」  チラリと俺の事を見た先生だったが、俺が何も言わないと分かると直ぐに視線を外してくれた。  それにしても、成る程確かに運は発動している。目に見えて何かを生み出す、即効性の効果はない。例えばコウセイを助けたいと願ったのに、コウセイが茨の道から排出されてくるという偶然は起きなかった。だがこうして道に迷わず偶然にも階段を見つける事が出来た。  少々納得もいかないが、俺の中で大まかな起こりうることとそうでない事が分けられてきている。  即座の奇跡は起こらない、だが自らの進んで行く先に偶然は起きる。  だがその偶然は奇跡と言えないのかと言えば否である。だから納得がいかないが、なんとなく全く指標が無かった空間に、おぼろげながら一本の境界が見えてきた。  茨の道はどれほどの階層があるのか全く分かっていない。だがダンジョンと同じく下へ下へと下っていく。 「はぁ、はぁ」  だが下に降りるために歩いていると、息が上がる。これが茨の道の特性、これは確かにキツイ。先生は余裕そうに見えて先ほど汗をぬぐっていた。アンドルも大丈夫そうだが、眉間にしわを寄せて何か思うところはあるようだ。 「……少し休憩にしましょうか」  先生の案に賛成して、その場で止まる事になった。勿論周囲にはいつ魔物が出ても可笑しくはないので、しっかりとした休憩にはならない。だが止まって回復出来るだけましである。 「ここからは更にきつくなるでしょう。帰るなら今の内ですよ?」 「いえ、大丈夫です」 「……キョウガ君、答えずらい質問だとは思います。勿論答えなくても構いません。自分の手の内を明かしたい方は早々いませんから。ですが、貴方はどうやらデュアル、スキルを二つ持つ者のようです。そのスキルを教えて頂けませんか?」 「どうしてですか?」 「……保身です。もし教えて頂ければ私もこの状況を打破できるかもしれないスキルを使いましょう。ですがそれを他者にばらされては困りますので、手の内の交換ということですね」 「連れて帰る口実を失ってまで、どうして」 「貴方のスキルに興味があるからです」 「……お前のその癖、変わってなかったか」 「勿論です」

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