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第16話

「前言った人が惚れる主な三つって覚えてるか?」 「性格、外見、強さ」 「そうだ。まぁ俺を含めてその三つが複合して惚れるが、こいつの場合は強さが突き抜けてる……しかもただの強さでなく、自分の興味があるスキルを使っている事が前提だな。最初俺もターゲットにされてたが、俺のスキルが両方とも理解出来て納得したらすんなり引き下がったんだぜ」 「えぇ、その強さは尊敬に値しますが、大衆が持ちうるようなスキルでは興奮できませんからね」 「……こういう奴だ」  ……知りたくなかったなぁ。  でも俺のスキルが発動しているときに起ったという事は、これも何かしらの意味があるかもしれないわけだ。 「……でも先に進むには必要だろうし。教えます」 「……あっさりと引き受けましたね」 「断ると思ったのですか?」 「そうですね、半々と言ったところでしょうか」 「……俺のスキルは、簡単に言うと運が良くなるスキルです。なので運よく道に迷わなかった」 「そのようなスキルが! ですがそれは、しかし現に、だが……」  今まで見たこともないほどに目を見開いた先生は、そのまま目を瞑ってぶつぶつと何かを呟いている。 「おっと失礼しました。ふふ、ずいぶんと面白い物をおもちなのですね。今度じっくり一緒に探求しましょうね」 「……じっくりはしなくてもいいとおもいますけど」 「それで私のスキルですね」  思いっきり流された! 「まぁ見て頂いた方が早いでしょう」  先生はそう呟くと、何かを呟いた。その呟きは小さすぎて聞こえなかったが、効果は劇的だった。一瞬にして先生に羽が生えたのだ、しかも天使の輪もある。だがその羽は街で見る天使の羽よりも小さい。天使の輪も小さく見える。 「このスキルは一時的に周囲を浄化及び効果範囲に入っている者を癒し続けます」 「……それは確かに凄いスキルですね」  成る程、この効果があれば減っていく値と増えていく値が相殺できるという事か。それにしても、回復系の上位スキル持ちの先生がなんで学校の先生なんてやっているのか。教えて貰っていた鑑定系のスキルだって、よく考えれば企業した方が儲かりそうな物なのに。 「……そんな隠し玉があったんだな」 「えぇ、まぁアンドル君と共闘している間は見せる必要もありませんでしたけどね」 「だがそれは本当にスキルなのか?」 「えぇスキルです。遺伝系の、ですがね。私の母が天使だったのです」 「天使って俺達と結婚とかできるのか? 知らなかったぜ」 「異例中の異例だそうですよ」  というか天使と子供作れるのか。天使達はそう言う事が出来る出来ない以前の問題だと思っていたのだけれども、思っていたよりも天使も此処で過ごす人なのかもしれないな。良い事を知れた。今までは正直この世界と天使を区切って考えていたけれども、強力な力を持った人という考えの方がよさそうだ。 「では行きましょうか」  先ほどから疲れが全て取れたように体が軽い。これが先生のスキルか。確かにこのスキルがあれば探索もはかどる!  ……。  はかどってはいるのだけれども、実感はない。あっちにいったりこっちに言ったり、正直やみくもに進んでいるようにしか感じない。だが階段へ当たるので此処が正解なのだろう。  途中罠等も運よく回避している。  正直俺の運って最初此処まで強かったかな? と疑問に思うほどだ。もしかしたらレベルは無いが熟練度はマスクデータとして存在しているのかもしれない。そして俺の運が更に進化しているとしたら……こういう時は便利だけどその他が怖いな。  だがレベルと他に熟練度があるのだとしたら、俺はもっと盾魔法を使わないとな。  という事で、許可を貰って出てきた敵の前に盾魔法を繰り返している。恐ろしい事にいくら使っても魔力切れにならない。ちらりと先生を見るとニコリとほほ笑まれた。それから人差し指を口の前にいっぽん持ってきた。  内緒ということなのだろう。  時間の感覚が可笑しくなる。階層は進んでいる、出てくる敵も強くなったらしい。だが周囲の景色が何一つ変わらないので、気が狂ってしまいそうになった。  更に階段を降りる。  その時密かに音が聞こえた。茨の道上層では他の人と会ったが、十階を超えてから会う事が無くなっていた。しかし前方から密かに戦闘音のような物が聞こえてくる。  警戒を一段階上げた俺達は、ゆっくりと音のする方へ向かった。  そこで戦っていたのは、お爺さんと獣? だった。長髪の白髪を後ろで束ねたお爺さんは、見事な足さばきで獣をいなしているが、攻撃らしき攻撃はしていない。体格的には腰も曲がっていない健康体……以上だと分かるし、顔は困り気味だ。  一方獣は服だったであろう物を身にまとっている。その体躯は身長の割には細い。此方に背を向けて戦闘しているのでどういった表情かは分からない。だがその攻撃は猛攻と言えるほどに激しく、殴る蹴る頭突き、目の前の敵をただ排除しようと躍起になっているように見える。……全部いなされているが。  服らしきものは上半身に少しと、下半身にぼろ布が纏っているような感じだ。 「ん? 探索者か? すまんのぉ、ちょいと取り込み中じゃ」 「……手伝うぜ?」 「いや斃したくないのじゃ、コレはワシの知り合いなんじゃが、ちょいと特異なスキルを持っておってな、今暴走状態なのじゃよ。本来なら気絶するような攻撃を浴びせようとも倒れる事は無いのじゃ、倒れるのは死した時のみ。じゃがもし此処で殺して外に追い出したとしてもの、万が一この状態で外に放り出せば色々先ずじゃろ? だからどうしたもんかと悩んどるのじゃ」 「御仁、それでは諫める方法はないのですか?」 「あるが……お主ら何か食い物もっとらんかのぉ?」 「食べ物ですか? これでよろしいですか?」  先生は懐から四角いチョコレートらしきものを取り出した。  先生、良く持ってたな。 「あるのか! それは有難い! 後で代金は払う! 譲ってくれ」 「えぇ構いませんよ、ではどうしましょうか? 投げますか?」 「いや、今取りに行くのじゃ」  お爺さんは強烈な回し蹴りを獣に放ち、獣が吹き飛ぶ。その隙にお爺さんはチョコを受け取り、吹き飛ばされた獣の方へと向かう。  気絶しないという言葉は正しく、直ぐに起き上がりお爺さんに向っていく獣。 「え!」  先ほどとは位置が逆になった。そこで初めて獣の顔が見えたが……もしかしなくても俺の探し人だったのだが。目は血走って涎塗れでかなり酷く歪んだ表情をしているが、他人の空似でなければ本人だろう。  お爺さんは無理やり開いている口の中にチョコレートを突っ込む。  すると先ほどの猛攻はぴたりと収まり、まるで良く味わう様に顎が上下し、そしてぱたりとその場に倒れ伏した。 「ふふ、彼も面白いスキルを持っているようですね」  チラリと先生を見ると、軽く舌で唇をなぞっていた。セクシーではあるんだけど、普段のイメージは全て崩壊した。 「ふいー助かったわい。改めて礼を言おう。ワシはイサジという」 「ヘイリーと申します」 「キョウガです」 「アンドルだ」 「では私達は行きましょうか?」 「あ、いえ、俺の探し物は見つかりましたよ」 「おや、それではあの面白い子がそうでしたか」 「ん? なんじゃコイツの知り合いかの?」 「コウセイ君ですよね?」 「そうじゃよ」 「ちょっと色々ありまして、彼を探していたのですよ」 「そうじゃったのか、それはすまんの。多分コイツが此処に来たのはワシのせいじゃ」  なんでもミスってお金が必要になって此処に来たのだが、彼は心配になって此処へ追って来たようだ。コウセイにとってはそれだけ大切な人という事なのだろう。だが流石に無茶だろう、帰ったらヘイリー先生のお仕置きに付き合って貰うとしよう。  さて、俺の検証も滞りなく……というか上手く行き過ぎる結果となったわけだ。正直恐ろしさは増したものの、今回は人助けに使っただけで俺の良心は痛まない。だがやはり無暗矢鱈に使うのは辞めておこう。だが迷路では有効という事は覚えておいても損はないだろう。特に高難易度ダンジョンといわれている茨の道でも問題なく発動したという事は、お宝が見つけやすいという事だ。 「よし、では帰るとするかの」 「お宝は回収済みなのですか?」 「まぁの。コイツと会ったのは帰り道じゃ」  という事でさっさと茨の道から脱出する事になった。茨の道には偶に脱出ポイントがあるという事で、それを探す事になった。  結果一個上の階に直ぐ発見できたのも、もしかしなくても俺のスキルのせいだろう。普通はこんなに早く見つかる事はないのだとか。 「それにしても、コウセイの食い意地には今みたいな理由があったとは」 「そりゃ勘違いじゃ少年。コイツの食い意地はスキルとは別じゃ。全く別とも言い難いがの、どちらかというと、食って静まるように訓練させたからの。食い意地の方が先行じゃ」  ……どれだけ食いしん坊だったんだコウセイは。そこはスキルのせいで綺麗に落ちるところだろうに。まぁ現実なんてそんなもんか。  ダンジョンから出ると、既に日は暮れて……上っていた。  朝の澄んだ空気と、朝焼けの空が俺達を迎えてくれた。 「うん、今日はさぼろう」  外に出たら一気に眠くなってきた。中では先生のスキルのお陰で平気だったのかもしれない。 「先生の前で堂々とさぼる宣言ですか?」 「はい!」 「……仕方ありませんね、今回は見逃しますが、勿論約束を破ったお仕置きは別ですよ。それでは私は此処で分かれるとしましょう。それではまた明日会いましょうキョウガ君」 「はい、また明日」  先生は一つ頷いて去って行った。 「それじゃあワシも帰るかの。今回は本当に助かった。また御礼をしに行くからの」  そう言って去ろうとした瞬間。よれよれの誰かが此方に向って来た。その男性はあの嘘をつくのが下手な男性で、お爺さんはそれをぎょっとした目で見て足早に去って行った。  男性もお爺さんを追っているようで、直ぐに二人の姿は見えなくなってしまった。 「それじゃあオレ達も帰ろうぜ」 「そうだね。そうだ、アンドル今日は色々とありがとう助かった」 「当たり前だろ、従属者だし。それ以上に、な」  少し照れてはにかみながら笑うアンドルに、俺も同じような笑顔で返した。

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