ダンジョン探索を終えた日から今日で一週間経つ。 　一週間も経てば何もが元通りになって行った。 　一日学校を休んだ後には、ヘイリー先生にコウセイと共に叱られた。コウセイはヘイリー先生と面識はなかったが、例の御爺さんに経緯を聞いていたのかちゃんとお説教を受け止めていた。 　コウセイがいなくなった日。やはり一人で道場に行っていたようだ。 　そこで俺達が救出した青年――師範代らしい――と会話して、何かあると後を付けてダンジョンに入る。だが途中で見失ってしまい、スキルに体を乗っ取られたらしい。 　コウセイはスキルの制御の為に師範の所へ通っているようで、この高校に来たのも自宅から通うよりも此方で一人暮らしした方が近いからだった。師範とコウセイの父親は知り合いらしく、コウセイがスキルで悩んでいるのを知ってアドバイスしてもらう様に訪れたそうだ。 　結論として、コウセイは心身ともに強くなる必要があるとされ、道場に通い始めて強くなる事にもその結果お金持ちになる事にも憧れを抱いたらしい。 　だが未だ未熟で、精神安定剤として何かを食べる事に紐づかせて今は押さえているらしい。将来は暴走状態を押さえつけて、あのポテンシャルを全て自分の物にすることが目標らしい。 　今回は自分に生き方を教えてくれた大切な人の事で焦り、十分な食料を持たないままに突っ込んだのが原因だった。その事を師範にも絞られたらしい。だがそれでも褒められたとはにかんでいた。 　そんな中で拗ねてしまったのがシリルだ。自分だけ除け者だと唇を尖らせていたので、二人でなだめて漸く普段通りのちょっとぶっきらぼうなシリルに戻ってくれた。 　どうやら寂しがり屋でもあるらしい……。 　コウセイの話では、借金は返せたのでもう問題ないらしい。期限は切れていたが、その分本来利子は着かないはずのお金に色を付けて返したからなんとかなったとか。 　道場も一時は師範がいなくなり慌ただしかったが、師範が戻ってきたらすぐに落ち着きを取り戻したらしい。 『師匠ももっと安心させてからいなくなって欲しい』、コウセイはそんな事を言っていたが、いなくなったらいなくなったでまた追いかけるのだろうなと思っても言わないでおいた。 　今日は休日。アンドルと共にカジノでアプリゲームの対戦をしている。 　勿論カジノのゲームとアプリゲームは別物だ。俺がカジノ中に変な事を考えないように、このゲームに集中しているというわけだ。　 　そして午前が終わる。 　今日お金を稼ぎに来たのはほかでもない、従属者を増やそうと思っているからだ。 　なにせ先月目の前で大金が税金として消えていったのだ、なんとか少しでも阻止したいじゃないか！ 　という事でガチャをやりに従属者契約所までやって来た。今回はアンドルも一緒だが、例の変身ケモ耳を装着している。勿論カジノからずっと。 　タブレットを貰って、複数あるソファーの中でも、二人掛けに並んで座る。 「……オレもこうやって選ばれたんだな。なんか感慨深いぜ」 「まだ一月くらいしか経ってないのに、色々あったよ」 　これが巻き込まれ体質……なんてな。どちらかというと巻き込んでるのは俺の方だな。厳密には俺のスキルか。 　さて、今日もAランクがいるガチャを引くとしようとして気が付く。新たなガチャが開設されていたのだ。その名もパーティーガチャ。此方はダンジョンのパーティー一つそのまま手に入るので、後は住居やらを用意するだけ。しかも元々組んでいた間柄なので連携もばっちりとの事。 「というか、パーティーで従属者落ちってあるのか？」 「よくあると言えばよくあるぜ。パーティーで無理な稼ぎ方して全滅ってのもあるが……わざと従属者になる奴もいる」 「え？」 「確かに主人には逆らえなくなるぜ。だが先ず無体な事はされない。そして、毎日働いて食費と家賃と装備の調整と、色々な出費がかさんで遊ぶ金がある奴ってのは割と少ない。なら食費と家賃と装備は主人持ち、働く場所は一緒、だが住む場所は今よりも良くなる可能性があるし、食事もそうだ。主人によっては今よりハードに稼がないといけなくなるかもしれないが、そうなったとしても働く事だけに意識を向けられる。あの費用は此処から出して……なんて面倒な事をする必要もなくなる。生きるのに疲れた中層探索者は、自ら従属者に成る事が多いぜ。初心者だと貰い手も限られてるから使い潰されるだけでそんな事は無いけどな」 　……成る程なぁそんな理由があったのか。考え方は少し違うが、自営業に疲れて会社に戻るみたいな感覚なのかね。 「それにしても、他よりも探索者？　達の数が多い気がするな」 「まぁ職人は従属者に成り難し、なったとしてもヘッドハンティングされる方が多いぜ。探索者の次に多いのは商人だな」 　成る程、商人も商人で大手がいる中頑張っていかないと大変だろうな。でもまぁ探索者に成るのが色々と楽ではあるんだろう。アスリートも順位でお金がもらえると言っても、ずっと最下層辺りを彷徨うならば、探索者の方がましなのかもしれない。結局上位陣が引退するまでは、だが同じく強力な若手が入って来て……ってなわけか。どこも世知辛ない。 　俺の場合は神様に感謝……したくないが、結果こうなってるなら感謝しないとな。そもそも間違えて殺されまくった神に感謝……。したくないなぁ。 「キョウガ？」 「あっ、ごめん、考え事をな。それじゃあ折角だからこのパーティーガチャの内容を見るか」 　Aランクパーティーはいないのか。まぁ平均ランクの表示だから、Aランクが一人であとBならBランク表示だろうしな。どうも数字にすると小数点以下切り捨てみたいだし。 　最高はBランクとして、他のガチャのように区分けは無い。ただ一つこのガチャがあるだけだ。しかも一回五億とかばかげた金額で。……Aランク入ってるの五回の方が絶対にお得じゃないか？ 　アンドルに尋ねてみると、微妙な顔をされた。 「確かにキョウガなら引けるかもしれないが、そんなにいないぜAランク」 「つまり毎日Aランクを取ってしまったら、結局Bランクになるって事か」 「そうだぜ。ならこっちで取るのも変わらないぜ。なんならAランクが出るのも引いたらいい」 　それは確かにそうだ。別にどちらか片方のガチャじゃないといけないわけでもないしな。 　さて、それじゃあ先ずはAランクの入っている一億のガチャから回して……。 　うんAランクが出たな。隣のアンドルは呆れと興奮を含んだ目で此方を見ている。 　更にパーティーガチャを二回引く。二回ともBランクだ。俺の運は今日も大盤振る舞いだな。 　占めて11憶。今日朝から頑張って稼いだから余裕はある、後一回行くことが出来るが……税金を考えると辞めておくべきか。一応俺が今フリーで使えるのは約9憶。これは先月の純利益だ。プラス2億程度なら何とかなるが……プラス7憶だともしもが有っても困る。此処は自制しておくべきだろう。 　因みに既に天秤は消しているので、今の思考は加味されていないはず。加味されていたら何が起きるか分からないしな。 　タブレットに目を落とすと、ガチャ結果と更にキープという項目があったのでヘルプを出してみる。なんでもパーティーガチャは人数がバラバラなので、三日間ほどキープすることが出来るらしい。その間に住まい等を整えると楽と書かれていた。 　成る程。前回はアンドル一人でも色々とあったからな。確かに準備期間が儲けられているのは俺としても嬉しい。パーティーと一緒なら単発の方も預かって貰えるみたいだしな。 　ならば今回はキープで明後日の学校帰りに寄ろう。そして今日この後の時間と明日は準備だな。えっと今回の結果と人数をもう一度確認しておくか。 　先ずAランクが四人。次いでBランクが七人、Cランクが一人。これでかなり税金が楽になるだろう。それではキープを選択。するとカウンターて手続きがあるようなのでカウンターへと向かう。 　手続きは簡単な物で、後は注意点をいくつか受ける事になった。簡単に言うと今日を含めて三日の取り置きを過ぎると、ガチャ結果が無効になる事。もし何かしらの理由で取りに来れない場合は、連絡しくれれば延滞料金付きで対応可能との事。 　手続きを済ませて、アンドルと共に不動産へ。 　今回はダンジョンに近い不動産を訪れた。 　此方の不動産は先日行った不動産とは規模が違った。やはりダンジョン付近はかなり人気な様子。 　12人の住まいを整えるというのは意外と大変だ。 　担当の男性に、十二人の従属者を住まわせるのにいい場所はないかと尋ねると、今後も増やす予定があるのか、無いのかを聞かれた。　 　そこはあんまり考えていなかったな。だが確かに今後も増えるだろうから大き目の物件を借りる事も考えないといけないな。 「成る程、それでしたら階層借りが宜しいですね」 「階層借りですか？」 「えぇ、多くのお客様に人気のプランです。簡単に言うと、マンションの一階全ての部屋を借りるという物で、新たな入居者がいても近場で纏められるのでお得ですよ。ただ入居していない部屋も勿論賃貸料金に入っていますので、今後を見据えてのプランになりますが」 「……成る程。因みにその階層借りだとどの辺りのどれくらいのお値段でどのような部屋があるのですか？」 「地図をお出ししますね……此方の赤丸が付いている所です。そして此方はダンジョンですね。基本的に電車で一駅若しくはダンジョンのそばになりますね。勿論ダンジョンに近い方が値段も上がっていきます。お値段もそれによって、そして借りる階層によって上下しますので、なんとも言えません。部屋に関しては、通常の一人暮らし用の部屋で整っている物もございますが、ファミリータイプや一人暮らし用など、階層借りに特化したマンションのご用意もございます」 　それは迷うな。ダンジョンが近ければ仕事に行きやすいだろうけど、ずっとその周辺と言うのも息が詰まるだろう。それならば電車で一駅の方がいいかもな。 「電車で一駅と、階層借り用のマンションを見せて頂けますか」 「畏まりました。それでしたらこの六つですね」 　……結構あるんだな。流石需要がある。 　ふむ、それでも広さや内装はかなり違いが出ているな。トレーニングルーム完備のマンションもある。 　……あっ、トレーニングしようとして忘れてた！　きょ、今日からやろう。 　そうだなぁ、やっぱりある程度は豪華な方がやる気がでるよな。毎日帰る場所だし。でもそうなると結構高いなぁ。ちょっと失礼してスマホを取り出す。ちゃんといくら減額されるのか確認していなかったからだ。 　先ずAランクが400人分、Bランクが350人分、Cランクが10人分。だから今回だけで760人分の30万円免除。2億2800万免除か。凄いな……。それなら少し高めでも免除費でどうにでもなるな。折角ならいい所にしよう。 　広さと部屋の多様性があり、ジムも付いている。 「じゃあこれとこれの見学に行きたいです」 「畏まりました。それでは車を回しますので、入り口でお待ちください」 　見学終了。最後まで迷ったが、駅や商業施設から少し離れているけれども、その分広くてお値段もちょっぴり低い、ただし4階を借りる事にした。 　もう一方は駅や商業施設に近いが、予定金額だと2階だった。他は埋まっているようだ。 　なので、4階で落ち着いた場所にしたという訳だ。 　さてそれじゃあ後は家具！　と思ったが、それは当人たちに選んで貰った方がいいのでは？　と思い直す。今回はアンドルの時とは違う。それならば明日迎えに行って、朝から整えて行って貰った方がいいだろう。いくらか渡して置けば各々好きなショップもあるだろうし、そこに行くだろうから。俺が適当に決めてしまうよりもいいだろう。 　では帰るとしますか。