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第21話
頭を悩ませていると、アンドルから帰宅のメールが入った。俺が家にいないから一応安否確認のメールだ。丁度良かったので今起きていることを話すと、別に従属者にしてしまっていいのでは? という返信が来た。
と言うのも、自宅の掃除をしてもらえるのは有難いという事だった。一応俺も少なからず家事はしているが、専任の人がいたら楽になるという事。
それは確かに一理ある。
特に今はアンドルに殆どお願いしている状況なので、彼からしたら欲しい人材なのだろう。
ならば俺もその意見に同意だな。従属者と考えるのではなく、家政婦さんを雇うような物か。
「――という事で、家事メインで良ければ了承しますよ」
「……いいのですか? 自分で言うのもおかしな話ですが、かなり自己中心的なお願いだと思うのですが」
「まぁそれがマッチしたという事で、それでは天使さんの所に行きましょうか」
無事に登録完了した。
だが予想外の事が一つあった。なんと彼のランクがAだったのだ!
Aランクだと、まぁ探索者をやらせたかった意味も分かる。だがアンドルも探索者として働かせていないし、今更感があるよな。
ウォーレンさんと共にマンションに帰ると、アンドルが出迎えてくれた。
双方に紹介して、自宅の内装を見て貰って、開いている部屋を一室使ってもらう事と、今後の決まり事についていくつか再確認となった。
家事は全部やってくれるというので、お願いした。後はお金を渡して、お引越しをしてもらう。今回はスマホ等の必需品を一新せずに引っ越しが出来るので、俺としても楽だった。
一週間もするとアンドルも慣れたのか、ウォーレンと一緒に料理をしている場面をよく見る。なんでも、一緒に料理をすると新たな発見があって面白いのだとか。元探索者の二人という事もあり、仲は良く見える。今日は二人でどこに買い物に行った、久しぶりにダンジョンへ行ったとアンドルに話しは聞いている。
ダンジョンに行ってもいいのかと思ったが、軽く運動の気分ならば問題ないようだ。それに、俺が学校にいる時間付き従うのは遠慮してもらってるので、その時間は家事と自由時間だ。
執事的なスキルは無いと言っていたが、それでも家事はほぼ完ぺき。折角なのでやってもらった事務もかなり助かる、工房と探索組への金銭管理は任せる事にしてしまった。これで俺の面倒もかなり減る。ありがとうウォーレン!
「えーっと、此処がこうか?」
「違う、こっちがこう」
「……コウセイ、それさっきもだっだな」
テストが終わったばかりなのだが、もうすぐテストだ。
七月頭の期末テストに向けて、俺の家で勉強会を開いていた。既に俺がある程度金持ちだという事は知られているので、二人をマンションに招待した。
流石に最初は驚いていた二人だったが、三回目の今日になると既に勝手知ったると言わんばかりに落ち着いている。
知られた後は、実は少し不安だった。
態度が変わったり、変わらないように努力してぎこちなくなったり、そんな事が起こるのではないかと思っていたが、そのような事は無かった。若しくは俺が鈍くて気が付かないだけだったので、どっちにしろ僥倖だった。
金銭面ではそうだが、コウセイに関しては偶にアンドルに揉まれたそうにしていたので、テストが終わったらアンドルと一緒に道場に行くことになった。シリルも誘ったが、工房に行きたいという事で予定はコウセイとだ。
まぁでもシリルにこうして勉強を付き合って貰っているので、勿論お疲れパーティーは行う。一応プランは色々と考えているが、一番有力なのが、俺とアンドルとウォーレンとで料理を量産して自宅パーティーだ。コウセイの胃袋の恐ろしさは既に伝えてあるので、準備を開始してくれている。一応幾らか渡したが、これで大鍋が二つ買えると嬉しそうにしていた。一体どれほどの量を作るのか。
……考えない事にした。
「そう言えば、夏休みは二人ともなにするの?」
「工房」
「道場」
色気がないなぁ。
折角の夏休みなんだから、イベントを起こそう。と考えたが、自分の高校時代を振り返ってみると、二人の事を何にも言えなかった。でも大人になってあの時なんて思う事もあるのだ、それならば大人になった時にあの時もっと夏を満喫していれば、なんて後悔の無い夏にするのだ!
「じゃあプラン練るから一緒に遊ぼう、アルガ達も誘えば仕事場が移動しただけだからシリルも一緒に来れるし、コウセイはアンドルが一緒にいるから来るだろう?」
「それなら」
「夏の特訓か!」
チラリとウォーレンを見ると、ウォーレンが一つ頷いてくれた。
多分通じたはずだ。
コウセイとシリルが帰った後、夕飯を摂り終わってから何枚かプリントアウトされた髪をウォーレンが差し出してくれた。
「リゾート施設か、さっきの話か?」
アンドルが興味深く一枚一枚見ているので、俺もそれに頷きながら軽み全ての場所を見る。
「そうそう、今年の夏の思い出は今年の夏だけってな。うーん出来ればあんまり人がいないところがいいんだけどなぁ」
「でしたら此方は如何ですか?」
「これは、貸し切りペンションか。しかも人工島の一区画丸ごとだから人もいないし確かにいいかもな。これなら工房だけじゃなくて探索組も誘って社員旅行だな! まぁ大人組は来るか来ないか任意でいいか。アルガだけは強制参加だけどな」
さらに貸し切りペンションの情報を漁っていると、料金プランを見つけた。二泊から泊まれるが、プランとしては一週間か一か月の物がお勧めされていた。流石に一か月丸々居るつもりもないので、一週間かな。一週間のプランだと、基本料金と人数を計算して……うーん思ったよりも高いが……何かあった時の貯金から崩すか。この程度ならまた直ぐに戻るしな。特にウォーレンのお陰で更に3000万税金の免除額が増えたわけだしな。
それじゃあ早速各人にメールをして、コウセイとシリルにはもし泊まりに行くならダメな日を教えて貰うようにメールをしてと。
結局大人組も全員参加。コウセイとシリルの予定も合わせて、一週間全員で孤島に行くことが決定した。
だが浮かれてもいられない。なにせまだテストが終わったわけではないからな!
「……おはようございます、朝食のご用意は出来てます」
「ありがとうウォーレン……そこだけはまだ慣れないのな」
テストが始まると出来ないからという事で、昨日は長めにアンドルと交合っていたので俺は自室ではなくアンドルの部屋で寝た。
ウォーレンは毎朝お越しに来てくれるが、部屋に居なかったので昨夜はお楽しみだったと分かったようで、意外と初心なこの執事は、翌朝俺とアンドルにどういう顔を向けていいか分からないとの事。
その事について一度ウォーレンと話しあったが、このマンションから出ていくという選択肢はなかった。
シェアハウスで置き換えてみるとかなり気まずいと俺は思うのだが、こっちの世界では割と普通らしい。勿論ある程度力がある人で、そういう事がある場合だけど。なので恥ずかしがりはしても、それ以上でも以下でもないらしい。それよりも執事として一緒に居られない方が痛恨だという。
そんなこんなで一人増えた生活とテスト勉強は進んで行った。
今回のテストは割と難しかった箇所があった。だがシリルが指摘してくれていたところなので、解く事が出来た! シリル先生ありがとう!
「終わった」
「出来た?」
「オワッタ」
二重の意味だったらしい。
「でも中学の頃よりはましだよ。シリルのお陰だ」
「確かにシリルが言っていたところ、テストに出たから楽だった。ありがとうシリル」
「いや、うん」
さて、それではお疲れ様会を開くとするか。
テストは午前で終わりなので、今日のお昼から夜にかけてパーティーをすることになったのだ。
家に帰って来ると、台所の方からいい匂いが漂ってくる。
「二人はリビングで待機してて」
それだけ言って、台所へと向かう。
台所では二人がせわしなく料理を作っており、足の踏み場ならぬ野菜の置き場がないほどだった。
俺が下ごしらえした野菜やら達も既に調理されているだろう。
「ただいま。二人とも大丈夫?」
「おうおかえり! 問題ないぜ、あと少しで持ってけるから、キョウガもリビングに居ていいぞ」
「えぇ、直ぐにお持ちいたしますので、ご学友と共にお待ちください」
「分かった」
リビングに戻って直ぐに、先ずは大鍋が二つと炊飯ジャーが持ち込まれた。
中身はカレーとハッシュドビーフ。大量に造るのはやはりこの辺りがいい。次にサラダが大盛に持ち込まれ、その隣には山森パスタが並ぶ。
「お待たせいたしました。他の料理もございますので、食べて頂ければ順次お持ちいたします」
「ありがとう、取り合えずこの量を消費するのにも時間かかるだろうし、二人も一緒に」
「……しかし」
「まぁいいと思うぜ。キョウガは俺達だけセカセカしてんのが気になるんだろうぜ」
「そう言う事」
用意してあったジュースで乾杯をして、コウセイに遠慮はいらぬと言ってからパーティーが始まった。シリルも美味しそうに食べていたので、良かった。特にカレーやハッシュドビーフなんかは好きとの事。
コウセイも最初はかなり遠慮気味に食べていたが、もっといいからと押しまくって遠慮なく食べて貰っている。
だがまぁコウセイがいるとこの量も驚くほど少なく思える。食べるスピードが異様に早い訳でもないが、淡々と一定のスピードで消えていく。ペースが落ちる事は無い。普通の人から見ればスピードも速い方ではあるので、目に見えて鍋の中が減っていくのを見て、やはりコウセイの胃袋はブラックホールと再認識した。
シリルも呆れた目を通り越して何処か尊敬した眼差しをしていた。
結局鍋二つを消費しても止まらなそうだったので、俺も手伝って料理を増やす。シリルは今度こそと自分のペースを守っていたので、先日のような失態にはなっていない。今もちょいちょい進めている。
パーティーが一段落着いて、夏の旅行についての話になった。
家族にもちゃんと許可を貰っているらしいので、決めている日程で問題ないそうだ。
後いくつ寝ると、夏休み。
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