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第23話

「そんな訳でファンサービスしていたら、ビギナーっぽいのが勝ちまくってるじゃないか! って事でちょっかい掛けたが返り討ちにあった! ラッキーな事に俺様はついてるぜ!」 「ついてるですか?」  俺が首をかしげると、ニヤリと笑うイッケイさん。 「俺とタッグを組まないか?」 「タッグですか?」 「そうだ! 来週にテレビが入るビッグな大会がある。俺様はそこに一人で参加するつもりだったが、三人までならグループを組んでいい事になってんだ。だから俺とタッグを組もうぜ! 俺様とキョウなら絶対に優勝できるッ!」 「……取り合えずもう少し詳細を」  なんだか思ってもいなかった方向に話しが進んで行く……。  イッケイさんの話では、大会には二種類あるそうだ。  一つは天使達が開催するテレビ放送も入る公式大会。  もう一つは、住人が主催者となり開催する大会。此方はお金を払えばテレビ放送も出来るらしい。  今回の話は天使の開催する大会だそうだ。なんでも一年に一度の最も大きなカジノの大会だそうで、上級市民一般市民関係なく参加が可能との事。  また、天使の開催する天空杯はどの部門でも入賞することで栄誉もついてくるらしい。  商品は部門によるようだけれども、カジノの場合は賞金が贈られる。この賞金は税金の対象外となるそうだ。 「俺様は今まで残念ながら三位までに入れたことはない。毎回十位以内だ。去年は六位だったな……。それは俺様に得意なゲームとそうでないゲームがあるからなんだが……。だがっ! そこでキョウの出番だ! 俺様の苦手なゲームをカバーしてくれれば、俺様達は優勝だ!」 「……成る程、二人はどう思う?」 「そうだな、俺的には参加してもいいと思うぜ。天空杯っていや俺達にとっては憧れの大会だからな」 「そうですね。誰でも参加できるとは言いますが、予選でかなりの方が消えますから、舞台となる天空競技場へたどり着くのは皆の憧れでもあるのです」  栄誉ねぇ。  正直言って今の俺にはあまり必要ない気はするんだよな。 「栄誉があるといい事があるのですか?」 「そりゃこうやってちやほやされたり上級市民に成れたりするだろ」 「上級市民は栄誉がないとなれないのですか?」 「そんな事も知らないのか? 箱入り息子か何かか?」  栄誉があると上級市民になれる。一応目指している場所ではあるから、俺にも栄誉は必要という事か。それなら誘いに乗ってもいいけど、彼の事をまだあまりよく知らないんだよな。 「……もし方向性の違いが出たら即解散してもいいですか?」 「バンドかよ! 別にいいけどな。言ってしまえば促成タッグってだけで今後一生って訳でもないからな!」 「それならお願いします」 「よし! それじゃあキョウの実力、もっと見せてくれよ!」  という事で様々なカジノを回ったが、その結果イッケイを戦慄させる事となった。 「流石俺様! 俺様の目に狂いはない! 無いが、ちょっと予想外だった。キョウ、お前強すぎないか?」 「……そう言われましても」 「……いやほんと俺様ナイス判断。さっきも言ったが俺様はポーカー系にはめっぽう強い。だからポーカー系は任せろ! ブラックジャックも問題はないがッ! 今回は優勝を取りに行くためにキョウに頼む! 俺様の苦手なルーレットとスロットもな!」 「……俺の種目が多いけどいいのか」 「勿論だ! プライドは他の所で発揮する! 俺様は、優勝したいからな」 「……どうしてそこまで勝ちたいのですか?」 「内緒だ!」  イッケイさんは楽しそうに笑いながらそう言った。  最後にお互いの連絡先を交換して、カジノを後にすることにした。  家に帰って来て、大会についてもう少し詳しく調べてみる事にした。  種目は説明を受けた通り。  ブラックジャック、スタンダードポーカー、バカラ、スロット、テキサスホールデムポーカー、ルーレットの六種目によって行われる。  最終順位は終了時の金額となる。ルーレットやスロットも回数が決まっており、時間制限の中でどれだけ稼げるかという勝負ではない。  勝った者には賞金が贈られるが、それよりも栄誉を狙う物が多い。特にテレビが入るので誰でも見る事が出来る、その結果尊敬を集めるのにも一役買い上級市民に上がれる期間が早まる。  それで、イッケイさんはポーカー系だけとは言っていたけれども、チャットのやり取りでバカラもやってもらう事になった。俺が担当するのは、ブラックジャック、スロット、ルーレットとなる。どういった心境の変化か分からないけれども、俺としてはどれに出てもいいので了承しておいた。  一週間後、選手登録と予選受付が開始された。  受付はどのカジノでも行われているので、俺達は最初に会った中級区のカジノで落ち合った。予選の方法は、指定されたゲームを指定回数こなしその結果を提出する事。ディーラーに頼むと予選仕様にしてもらえる。  勝ち回数と儲け金額を提出して、後は結果を待つだけだ。  そんな中、どうもウォーレンの挙動が少しおかしい事に気が付いた。  夜、アンドルと共に話すと、アンドルにも思い当たる節は無いがもしやと思うところはあるという。 「多分の話になる。キョウガに惚れてしまったのではないか?」 「え?」 「考えても見ればわかるぜ。今まで全く相手にされなかった自分を希望通りに拾ってくれて、それでもってあれだけカジノで勝って、しかも可愛いと来た。今のウォーレンには内外共に最高の人間に見えてると思うぜ」 「……大袈裟と言いたいところだけど」 「大袈裟なんかじゃないぜ。それに、大会に出ればそれこそ大勢がキョウガに好感を持つだろ? そこの危機感もあると思うぜ」 「……どうすればいいと思う? 本人に聞く?」 「俺はそれが一番だと思うぜ」  という事で、翌日三人で話し合う事になった。  真剣な俺達にウォーレンは少し戸惑っていたけれども、話の内容を理解してすまなそうな顔をしていた。 「私の事で悩ませてしまい申し訳ございません。……なんと申していいか、はっきり言えばその通りです。ですが、私は執事です。仕える方とそのような」  そこか!  どうやら、一番の悩みどころは『執事として主人とそういう関係になるのはよろしくない』だったようだ。こればっかりは俺にはどうしようもない、自分で割り切って貰うしか。 「ですが……その、諦める事も、出来そうになく」  いつもはどっしりと構えているウォーレンが、なんだか少し小さく見えた。それに普段とのギャップで可愛く見えてくるのは錯覚なのだろうか? 「じゃあお友達から始めよう」 「それはいい案だと思うぜ、それにウォーレンも付き合ってくれたら、オレのこの罪悪感もな」 「うっ、ごめんアンドル」 「いや、オレだって独占したいって思いもあるからな、両天秤なんだ。変な事いって悪いキョウガ」 「という事で、友達としてもよろしくウォーレン」 「は、はい!」  なんて事があったので、今日は一日ウォーレンさんと遊び歩くことになった。  ウォーレンさんは趣味は無く、今迄はダンジョン以外の時間を執事として全てをこなせるように頑張って来たらしい。  執事って料理や掃除もするのか? という問いにもすると返って来た。彼の見る執事像がかなり大きい事も再確認できた。 「……申し訳ありません。こういった事には慣れておらず」 「俺も慣れてはいないからさ」  結局お互いの気になるショップに行くことになった。  ウォーレンは調理器具売り場へと向かい、どんなものが食べたいか等と俺からリサーチしていた。まぁ彼の執事根性? は簡単には抜けないだろうから、見守ろう。  俺の向かった先はボードゲームショップだ。と言っても買うのはトランプやらだけどな。  そう言えば家にはトランプやリバーシ等の道具が無い事に気が付き、この際に買う事にしたのだ。  ウォーレンにもどんなものがいいのか聞きながら、帰ったら三人で人生ゲームをやろうと約束して家に帰る事になった。  だがその前に付いてきて欲しいと言うので付いて行くと、そこはダンジョンだった。 「貴方様に私の力も、見て頂きたく」  真剣に目を見てそう言われれば、嫌とは言えない。  彼の武装化状態は、槍を持っていた。  そしてその戦い方は熾烈の一言だった。とめどない連撃と敵への接敵。階層が浅い事もあり、敵は直ぐに斃してしまった。だがその姿にアンドルとは違う強さを見れた気がした。 「私は……この槍をキョウガ様に捧げます」 「ありがとう」  言った本人も言われた俺も、お互いに少し照れながら今度こそ帰路についた。

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