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第7話 その色香

 歳は二十五、驚くことに同じ歳だった。  別の営業所からこっちに転勤になり、通える距離じゃなかったから引っ越ししてきたらしい。  それで昨日は歓迎会だったわけだ。営業部のほうの。けっこう人の入れ替わりが営業部に限っては多いから、歓迎会は別々になることが多い。というより整備部のほうはあまり参加したがらないんだ。車通勤だから、面倒なんだろう。俺も、面倒だと思うほうだ。 「助かりました。まだ、地理がわかっていなくて」  しかも、見えてないから余計に大変なんだと優しい声色がぼやいてた。今朝も見えてないせいで、職場の扉に何度も突撃してしまったって笑って。  笑ったことにつられるように風が舞ったのに、シチサンの髪はこれっぽっちも乱れることなくそのままだった。  すらりとした横長のレンズの形が輪郭に馴染んで、涼しげな目元にも似合ってる。細いフレームは半透明のグレーカラーで、緩やかなラインが車のボディーみたいに滑らかだ。 「すみません。たくさん付き合わせてしまって」 「……いや」  良い男だと、思った。 「どうですか? 似合ってます?」  俺が選んだ眼鏡をかけて笑ってる。 「まぁ、昼間かけてた子どもの眼鏡よりは幾分な」 「そっ! それはもう言いっこなしでしょう」  この風にも崩れない髪が乱れた時を、俺は、知っている。 「あはは。可愛かったじゃん」 「……あ、あの」  そのことは、まるで、この男の内緒の部分を知っているみたいに思えて。 「あの、この辺で、食事の美味しいところご存知ないですか?」 「……」 「土地勘がないので、とても不便でして、だから」  その優越感がとても美味かった。 「だからっ」 「……酒と魚が美味い店、知ってるよ」  このシチサンが乱れたところは単純に、楽しかった。 「あっ……ン、も、ヘーキ、柔らかい、だろ」 「ぁ、はい」 「昨日、したから、そこまで硬くない、んだ」  言いながら、自分で脚を広げて挿入しやすいように手伝った。  駅の前にある美味い定食屋を教えてやった。あんまり綺麗な店じゃないけど、魚が美味くて、たまに寄ってるとこ。飲み屋もけっこうあるし、そんな飲み屋の一角からは外れたところにあるから、客は大概、この店の手前でどこかしらに入ってく。だからすごい穴場なんだといったら、嬉しそうに笑ってた。  そんで、飯食って、魚の鮮度と美味さに目を輝かせたこいつと、ビール、何杯飲んだんだろうな。昨日ほど酔っ払ってはいなかったけど、でも、真っ赤な顔をしたこいつに誘われた。  俺は別にかまわないよ。セックスは気持ちイイし、好きだから。けど、こいつはそうもいかないだろ? だから止めたほうがいいと思ったんだ。  ――何? もしかして嵌っちゃった? 貞操、大事にしとけよ。  そう言って笑ってごまかしたかったのに。  ――うち、すぐそこなんです。  酔っ払ってただけじゃない赤い頬、買ったばかりの眼鏡越しに向けられる真っ直ぐな眼差しに、ごまかしきれなくなった。  だって、「お茶でもどうですか?」なんて定番すぎる誘い文句を、あんな必死の顔で言われたら、なんか、来たんだ。いろんなものがさ。 「ゴム、付けられる?」 「あ、大丈夫」  シチサンがぐちゃぐちゃだ。  デスクワークが主なこいつは大丈夫だろうけど、力仕事もある現場勤めの俺はそうもいかなくて、汗を流すためにもシャワーを拝借した。  そして、出てくるなりまだタオルで拭いきれてなかった俺を抱き締めたりするから、白いシャツが濡れて透けて。 「っつうか、よくゴム持ってたな」 「あ、その、そういうお店、行ってみたりもしたから」  あぁ、なるほど。納得をしながら、まだ拙い手つきでゴムを装着するこいつを眺める。 「毛、巻き込まないようにしないと」 「っ、ぁ、触らないで」 「なんで?」  切羽詰まった顔してる。  息の乱れたこいつを見るのがとても楽しかった。シチサン眼鏡の生真面目リーマンの淫らな姿はクルものがあった。  だから、言い訳をくっつけて手を伸ばしたんだ。触りたかった。 「あっ」 「イきそう?」 「っ」 「いいよ。一回、手で、ンっ……ん、っん、ン」  触って、この男のことをもっとぐちゃぐちゃにしたかった。  押し倒されて、股を広げたままの俺は、脚を閉じることなく待ってる。キスで舌を絡ませ合いながら、このあと入って来るだろう昨日のペニスにすでに腹の底がきゅんきゅんって切なさを滲ませてる。だから、膝を掴んで更に割り開かれた時、ゾクッとした。  もっと拡げて? ここに挿れやすくして? そう、その力強く膝を掴む掌が言ってる気がした。 「ン、んんんんっ」 「っ、ぁっ」  ズブズブと挿入してくる熱の存在感に背中がしなる。ただ挿れられただけなのに、足先まで痺れるくらいに気持ち良くて。 「あ、すごっ」  うっとりした顔。 「あぁぁぁっ、ン」 「ここ? だったと」 「ン、そこぉ、好き」 「ぜんりつせん?」  腰を力強く振りながら、首を傾げる三國の目元を汗で濡れた髪が覆い隠す。風にも乱れない、生真面目な男の髪が。 「ぁ、ン、もっと、そこ、激しくっ、していいっ」 「ン、こう?」  もうぐちゃぐちゃだ。 「あああっ」 「あと、こっちもやってあげる」 「ン、ぁっ、ダメっ、乳首も、されたら」 「好きでしょ?」  汗で額に張り付いた髪がセクシーだった。  胸元に齧り付いて、つんと尖がって勃起した乳首を舌で転がす三國の笑った顔に、身体が甘く反応する。 「好、きぃ……ぁっもっと」  齧って。食べるみたいに、その生真面目なことばかり言う口の中で俺の乳首味わって。 「あ、あっ、それ、気持ちイイっ、ン」  奥までペニスでぐちゃぐちゃにして欲しい。 「俺も、貴方の中が、とても気持ちイイ」 「あ、ン、ぃくっ……乳首、も、お尻も、って、ヤバいっ」 「っ」  ダメだと思うよ。  俺はいいけど、三國はさ。真面目で、とりあえず男相手には機能不全じゃないとわかったんだから、もっと自分のことを大事にしたほうがいいと思う。思ってるんだけど。 「やぁっン、それ、イくっ」  思ってるけど、たまらなかったんだ。 「っ、俺、もっ」  このシチサンヘアーをこんなにぐちゃぐちゃにしてることが、この男が、仕事中は「私」と自身を呼んでいたのに、今、セックスの最中だけは「俺」と言っていたことに、たまらなく興奮した。

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