19 / 112

第19話 デートのように

 おい、おい、おい。  そう心の中でだけ呟いた。  高い天井には豪勢なシャンデリア。右隣には見事は生け花。左の柱の向こうにはラグジュアリーなソファ。そして、数メートル先にはチェックインの手続きをしている真紀がいる。  ドライブして水族館で魚眺めて、浮遊する海月に囲まれながらのディナーを楽しんで、そして、その水族館からほど近いところにある、お高いホテルに来た。ラブホテルじゃなくて、立派なホテル。 「すみません。お待たせしました」 「……」 「行きましょうか。案内断ってしまったんですが、いいですか?」  良くない。全然良くない。  スーッと音もなくどんどん上っていくエレベーター、何の音もさせない毛足の長い絨毯。そして、案内された部屋は。 「どうぞ」  どうぞ、じゃないだろ。 「誉さん」  おい、おい、おい。 「おい、ちょっ」 「良い眺めですね」  今度は心の中だけじゃなく、実際に口に出した。窓際で、足元の夜景を眺める格好で、後ろから抱き締められて言葉が止まる。 「足、疲れてないですか?」 「ン、ぁっ」  首筋を吸われて、ストップをかけようと思った言葉が喘ぎに変わる。 「誉さん」 「ん、ぁっ!」  チリリと首筋に走る小さな痛み。今、お前。 「すみません。でも、見えないところだから」  キスマーク付けられた。こんな高級ホテルの、その中でも高そうな一室で夜景見ながら抱き締められて、首筋に印を残された。 「ちょ、なぁ、ここ高くないか? その」  セフレ相手にカーディーラーの営業マンがこの出費なんてしたらダメだろ。これは、どう考えたって、俺用に用意して良いコースじゃない。 「これ、お前、デー」  ――コン、コン。  遠慮がちなノックの音だったけど、俺は飛び上がって驚いた。けど、真紀はルームサービスを頼んだんだって、笑って、抱き締めていた腕を解く。  解かれて、ホッとする自分と、包まれていた体温を恋しく思う自分があって、俺は困るんだ。こんなデートコースみたいなことをされたら、勘違いしそうになる。大事にされて、気遣われて、セフレなのに、これは恋愛なんじゃないかと思いそうになるだろ。そんな間違えは後々、修正するのが面倒になる。絶対に。だから、こういうのは困るんだ。 「誉さんはまだ飲めますか?」 「え?」  さっき、真紀がフロントで何か話してたのはこれを頼んでたのか。 「スパークリングワイン」 「ちょ、それっ、飲んだら」  ドライブがてらの水族館だったったんだ。その後、夕食と一緒に俺だけ酒を飲んだ。美味い日本酒だった。車の運転があるからと、真紀はその時は控えていた。だから、それを今お前が飲んでしまったら、もう。 「……本当だ。美味しい。さっき、勧められたんです。誉さん、辛口のほうが酒は好きって言ってたでしょ? 何か、そういうのないですかと尋ねて」  お前も飲んだら、運転手が、いなくなる。 「誉さんも、どうぞ」  ここに泊まることに、なる。 「……ンっ」  戸惑って、じっとしていた。 「ン、んっ……んんっ、く」  そんな俺を見つめながら、グラスの残りを口に含んだ真紀がそのまま近づいて、さっき以上に強い力で俺を抱き締めながら口付ける。流し込まれたのは炭酸の刺激は強くて、舌がピリピリと痛くて、ゾクゾクした。 「おま、こういうのどこで覚えてくんの?」  このシチュで、あのキスマークで、この口移し、とか。その他諸々。 「ネットと、あと、映画と、ドラマです。もっと、飲んで、誉さん」 「ンっ」  お前、その知識ある意味正解だけど、それをする相手を、間違えてるって言いたかったんだ。 「ン、んっ……ぁ、ふっ……んんっ」 「誉さん」  舌が絡まり合う、こいつの、あの濃厚なキスに塞がれて、その注意を言う隙間も、呼吸をする隙間もない。ただ、顎を伝う唾液にさえ、震えるほど、もう身体は真紀とセックスがしたいって騒がしかった。  どんな人が使うんだろうな。こんな部屋。 「あ、はぁっ……ン」  やらしい風呂。 「あぁぁっン、乳首っ」 「気持ちイイ?」  夜景を見ながらのリラックスタイム、になんてなるかよ。つまりは裸が外に丸見えってことなんだから。なのに、敏感になる。浴槽に溜めたお湯に浸かることなく立ち上がって、硝子に向かって手を付いて、抱き締められてる俺は、丸裸だ。 「あ、ン、気持ち、イイ、そこ、強くされるの、たまんない」  キュンと抓られて、甘い悲鳴が跳ねた水音と一緒にタイルに反響する。慌てて口を手の甲で隠したけど、それでも、真紀の指にそこをいじられると声が我慢できないんだ。良すぎておかしくなりそうだ。 「よかった」 「ぁ、ン、右、も、して。あっ、はぁっ……」 「貴方が高所恐怖症じゃなくて」 「あぁぁっ」  ねだった右側の乳首も抓られて、また腰が揺れた。  その腰を掴んで、長い指が、奥の孔を撫でる。 「ン、ぁ、真紀」 「?」 「も、出よう。ベッドで続き」 「ここがいい」 「も、大丈夫だからさっ」 「?」  別に恥ずかしいことじゃない。セフレに一緒に出かけようといわれたら、そりゃそういう行為込みでのことだと思うから、だから、普通のことだ。なのに、こんなシチュをお前が用意するから。 「もうっ、準備してある、から」 「……え?」 「そのっ、そこ、洗ってあるし、ちゃんとほぐ、して、あるからっ」  妙に気恥ずかしくなる。抱かれたいと期待していた気持ちのほうが全面に来て、セフレなら当たり前の行為が、恋しさに摩り替わりそうで。 「も、すぐにできる、から、ベッドへ」 「……」 「ここじゃ」 「……見えたらいい」  何が、誰に? そんなことを訊く余裕なんてない。硝子に張り付けにされながら、手に手を重ねて、背中に体温を感じたと思ったら、ペニスで抉じ開けられたから。 「ぁ、ちょ、ン、ぁ、あああああああ」 「っ、誉、さん」 「あっ……ン」  念入りに柔くしておいた奥が欲しがってた真紀の熱が恋しかったって伝えるみたいに、しがみつく。 「あっ、や……真紀っイっちゃっ、ぁっ」  アロマオイルでほんのり香る湯の中にやらしい白が混ざって、理性も一緒にそのままそこに滴り落ちて混ざった。 「真紀、気持ち、イイっ」  夜景を眺めながら、じゃない。夜景に見つめられてる。見せ付けてるんだ。真紀とのセックスを、やらしくて甘いセックスをもっと。 「奥、んっ」  見せびらかしたい

ともだちにシェアしよう!