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第21話 ズブズブ深く

 あーあ、事態は深刻だ。 「はぁ……」  そんな溜め息をつきたくもなる。そう、本当に状況は悪化の一途。深みに嵌って、ずぶずぶ、ずぶずぶ、って、もう抜け出せないかもしれない。  この男のこと。  まさか、名前呼ばれただけで感度割り増しで初潮吹き、なんて、するとは思わなかった。そこまで自分がこの男のことを好きになってるなんて思ってなかったんだ。  何度セックスをしても泊まることはしなかった。どんなにだるくても、どんなにまだ一緒にいたくても、面倒だろうと必ず寝る場所は自分のところにしていた。  だってこの男はそういうの気にもしないだろ? 絶対に、何も深く考えず、そして、俺の深いところをぐちゃぐちゃに掻き乱すに違いないって思った。だから、これは俺なりの線引きだったんだ。  セフレだからお泊りをしなかったんじゃない。セフレだと思っているだろうこの男の寝顔を見たら、きっと増すから、避けてたのに。  この男はそんなのおかまいなしに突っ込むんだ。無遠慮に、無防備に、俺の中を抉じ開けて掻き乱す。 「……腕、痺れて痛いだろ……」  知らないの? これ、腕枕って、フツーしねぇの。ダサいし、するほうにとっても苦行だろうけど、されるほうにとってもけっこうしんどいんだぜ? ゴリゴリした二の腕なんて気持ち良くねぇし、暑いし、狭いし、寝返りうつのすら遠慮がちにしないといけないし。だから、あんま歓迎されないと思うよ。 「……ったく」  少なくとも、俺は、好きじゃない。好き、じゃなかった。 「……髪、ぐちゃぐちゃじゃん」  してやろうかって言われると断ってた。いらないって、本物の枕を奪い取ってた。 「って、ボサボサにしたの俺だけどさ。おい、手」  腕枕だけじゃなくて、その下敷きになってる腕で肩まで抱いて離さなかった真紀の忍耐強さはすごいけど、俺にとっても、ある意味苦行だったよ。セフレの俺の扱いを間違えてるお前に付き合うのは。 「真紀、手」  これじゃ、お前はちゃんと寝れないだろ。  それに、どうすんだ、頬摺り寄せて、寝ぼけながらこの男に甘えたりなんてしたら。 「真紀、おい、手を」  好きじゃなかったんだぞ。腕枕。昨日までは。 「……ダメ」 「ちょ」  ベッドを抜け出ようと思ったのに、逆に距離を詰められ、まるでしまいこまれるみたいに真紀の腕の中に連れて行かれた。やだってば。 「喉渇いた?」 「あぁ、喉渇いたから、離っ…………ン、んくっ……ん」  喉なんて本当は渇いてない。でも、それを理由にして、この腕から出ようと思ったのに。  真紀がベッドのサイドテーブルに手を伸ばし昨日飲みかけだったミネラルウオーターのペットボトルを取った。腕の中にしまわれていた俺は、ぎゅっと押し潰されそうになって、文句を言おうとして、その唇を塞がれる。流し込まれるぬるくなった水を唇の端から零しながら。 「ぬる……」 「喉、痛くない? 昨日、誉さん、いっぱい声出してたから」 「っ!」  そう、昨日の俺はぐちゃぐちゃだった。お前が俺の身体と気持ちのどっちも奥まで抉じ開けるから。 「それに、昨日、いっぱい、何か」 「! ちょ、い、いいからっ」 「水飲んで。たくさん出しちゃったから、脱水症状に」 「ならないってっ! だから、水飲むならっ」 「頭痛い?」  心配そうな顔をするのなら、この手を離せよ。冷蔵庫にある冷たい水をくれ。こんな口移しのぬるい水じゃなくて。 「い、痛くない」  額を触れ合わせるのは、よくない。昨日よりも明るい部屋、この距離じゃ、バレる。 「熱が……?」 「ちがっ」  ほらな。勘付かれた。赤面しているのを発熱と思われたけれど、たしかに頬が赤くなっているのを知られて、慌ててしまう。熱なんてないと、急いで言わないと、本気で心配される。そしてこの男のことだ。 「これはっ! 違うから!」  もうセックスしないとか、言い出しそうだから。 「違う、から」  そしたら、セフレじゃなくなる。 「誉、さん?」 「っ」  バカだな。俺は。今さっき、この片想いに溜め息をついてたくせに。セフレでいるのはしんどいと、苦行だっつってたくせに、なくなるのはイヤなんだ。 「はっ、恥ずかしいだろうがっ」 「?」 「潮、吹く……とか……」  ほら、もうこんな必死になって腕に掴まるくらい、イヤなんだ。離したくない。 「初めて、だったから」 「はじ……」 「初めて! 潮とかなったからびっくりしたんだよ! だから、なんか気恥ずかしいだろうがっ」 「誉さん、初めて、だったの?」  だから、これはやめろよ。額を合わせるの。これだとお前に真っ赤になってる顔を見られる。慣れてないみたいな、初心なような、恋をしてそうな顔だと知られたら、困るんだ。 「あ、あぁ」 「初めて?」 「あぁ」 「誉さん、初めて潮吹いたの?」 「あぁ! だからそっ、ン……んん」  口移しで与えられたのは水じゃなくて、朝には似つかわしくない吐息。舌を差し込まれて、昨日みたいにぐちゃぐちゃに口の中を愛撫されて。 「ン、ん……っ! ちょっ」 「まだ、柔らかい」 「なっ、何っ、どこ触って。おいっ、朝だって」 「一回だけ」  頭上で手首を束ねられ、広げるように脚の間を割られ、最初の頃がウソみたいに手馴れた手つきで、ゴムを。そして、柔さを確かめられてしまった孔に触れる。 「ぁっ……ン」 「っ、誉、さ」 「あぁぁぁっ」  触れられて、すぐに開いて、真紀を咥えた。 「ぁ、やぁン」  腰を引かれると、昨日の快楽を引っ張り出されるようで切なくて。 「ン、ぁ、真紀っ」  突き入れられると気持ち良くて、名前を呼んで、深くに来てと腰をくねらせてしまう。 「真紀、ぁンっ……ぁ」 「誉さんっ」 「ぁ、あっ、あっ」  サラサラとしていた肌が一瞬で汗ばむ。一瞬で、全身で快楽を夢中になって追いかける。 「ぁ、やぁっン、乳首っ」  頭上の手首は固定されたまま、乳首を舌で濡らされながら攻められて奥が真紀にしゃぶりついてるのがわかる。夜から続く快楽に引きずられて、朝なのに、とろけるほどやらしいセックスをしてる。 「あ、ンっ、真紀っ」 「ここ? でしょ?」 「ひゃぁっン……ン」  脚を開いて、自分からも腰を使って、真紀のペニスを咥える。奥の深くて、気持ちイイとこに。 「あっ、ちょっ、そこは」  けど、ここはダメだ。前のとこ、そこはされたら。 「ね? ここ、でしょ? 昨日、ここを、強く擦ると、貴方は」  手首を拘束していた手は俺の腰を持ち上げ、場所をズラすと、前の、昨日見つけられた場所を抉るように擦り上げた。 「や、っだ、真紀」 「見せて」 「あぁぁっ」  前立腺のところを舐めるように、ペニスでされたら、またなる。 「潮吹くとこ、見たい」 「や、ぁっ、ぁ、っあぁ」 「誉っ」 「ぁ、あ、あ、あああああああっ」  昨日覚えた。昨日――。 「ぁ、あっ……またっ」 「っ、ン、絞られるっ」  昨日、教わったんだ。びしょ濡れになるほど気持ちイイセックスを。 「あン……真紀」  この男に、教わった。

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