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第23話 手に爪、うなじに刃

「はっ、あぁぁっ……ンっ」  ゴム越しで、中でイってるがわかる真紀のペニスに身震いした。ドクドクって自分の中で脈打つ別の熱に、息も絶え絶えに悶えるほど感じてる。 「やっ……ン、はぁっ、っン」  ベッドの上、身体を起こした状態で、膝立ちになってするバックセックスが、目の前の鏡に映ってる。 「あっ……ン、真紀ぃ」 「そんな声、出さないで」 「ん、だって」  鏡にはまだ繋がったまま、余韻に喘ぐ自分がいた。シーツの上には俺の弾かせた白いのと透明なの、その両方でびしょ濡れになったバスタオル。 「やぁっン」 「誉さん、待って。寝転がらないで。バスタオル外すから。びしょ濡れ」 「ン、あっお前のせいっだろっ、ん、あっ、クセになったのは」  言われて、頬がかぁっと熱くなった。  潮吹きなんて、やっかいな快楽だ。クセ、になったのか、真紀が狙ってそれをさせるのか、最近、身体がおかしいくらいに悦ぶんだ。  少し上体を倒し、俺を抱えたまま、ぐちゃぐちゃに濡れたバスタオルをひっぺがした。そのまま、俺は四つん這いで、首筋を齧られて、まだ中にいる真紀のペニスを締め付ける。気持ち良さそうに笑った吐息すらくすぐったくて身を捩ると、丁寧にうなじへキスをされた。射精直後で感度の指針が振り切れてる今は真紀の唇でも指先でも刺激的すぎる。もうなんにも出ないくらいにイかされて、ふかされたくせに、ペニスがピクンと揺れて反応してしまう。 「あんっ、ン、真紀?」  今夜はやたらと首筋に噛み突いてくる。セフレにしてはちょっとしつこいくらいのキスマーク。 「どうか、した?」 「……なんで、です?」 「ん、だって、今日、激しかった、から」  息が上がるほど、汗だくになってセックスした。イってる最中も続けざまに突かれて、快感の上に快感を乗っけられて、それでもまだ足りないみたいに、ずっと重なり続ける。何かにしがみついてないとおかしくなりそうだった。 「あっ……んっ」  抜ける時の快楽も、ほら、ごちそうみたいで唾液が零れそう。  そのままベッドにうつぶせで寝転がる。真紀は手をついてそんな俺の上に覆い被さった。  チラッとそっちを見上げると、射抜くようにこっちだけを凝視して、乱れた呼吸の真紀がいた。四つん這いだからなのか、それがまるで鋭い牙でも持った狼みたいに思えて、ぞくりと身体がざわつく。  食べられそう、なんて思えてくる。 「そ、だ。真紀、もう聞いた?」  でも、食べられたいと思う自分がいるから、もう手に負えない。 「? な、にが、です?」 「感謝祭」 「?」  聞いてないらしい。首を傾げてる。もうボサボサになった黒髪がそれに合わせて重たげに揺れた。髪が汗でびしょ濡れだ。自然とその濡れた髪に指で触れると、目を細めるから、なんだか、狼を手なずけてるような気分でさ。 「まだ聞いてないんだな。感謝祭。来月あるんだけど、それ、俺とお前が企画運営だってよ」 「……」 「さっき、うちのチーフがそれをこっそり耳打ちしてくれた。たぶん、そっちは明日くらいに言われるんじゃね?」 「!」 「真紀?」  急に目を見開いて驚いた顔をされた。何かを思いついたみたいに。ダメだった? イヤだったとか? なんで、そんなびっくりしてんだ? 「……んだ……俺はてっきり」 「真紀?」  何? 手で口元を覆い隠してるからちゃんと聞こえない。覗き込んで、聞き返すと慌てて、なんでもないと、今さっき聞き取れなかった言葉を掻き消すみたいに手を振ってる。  その手に、引っ掻き傷があった。俺が付けたんだ。 「手、引っ掻いた。わりぃ」  激しいセックスに堪えきれなくて、後ろから俺を抱く真紀の手の甲を引っ掻いた。 「痛い?」 「っ」 「ご、ごめんっ」  指で少しだけ触れたら、ヒリヒリするのか息を詰められて、慌てて手を引っ込めた。 「気にしないでいいです。誉さんの爪痕、好きですよ」 「バカなこと言ってんなっ、これっ」  悪いことをした。手にこんな引っ掻き傷があったんじゃ、接客の時にダメだろ。無我夢中だったんだ。気持ち良すぎておかしくなりそうなくらい。ヤバいって思うのに、止めて欲しくはなくてしがみついてた。それにバイキンが。 「平気」 「平気って、営業マンのくせに。それに、俺の爪はっ」  ミミズバレ程度で済めばいいけど。これ、けっこう深いかも。あとで、ラブホを出たら消毒液を買ったほうがいい気がする。だって、俺は仕事柄、ほら、爪の間も。 「好きって、言ったでしょ」 「ン、ちょっ」  決して綺麗とは言えない手、指、爪。特殊な石鹸で何度洗っても染み込んで残るオイルの黒い色はもうどうしょうもない。その指先に真紀の唇が触れて、俺は慌ててその手を引っ込めようとした。これはそんなふうに口付けられるほど綺麗なものじゃないから。 「真紀っ」 「俺こそ、すみません」 「?」 「これ、痛かったでしょ?」  手は掴まれたまま、もう片方の手が触れたのはうなじ。 「噛んじゃったから。歯形が」 「っ、ン」 「痛い?」  痛い。少し、手で触られるとヒリヒリする。まだ火照った肌は敏感だから余計に感覚がすごいんだ。痛いのに、ゾクゾクする。そっちの趣味なんてないのに。 「ぁ、ンっ……平気」 「けど、これ、もしかしたら、作業服から見えるかも」 「ン、い、い」  痛いのなんて好きじゃなかったのに。誤解されるぞ、痛いのも好きなのかって、真紀に思われるだろ。違うのに。 「整備士さんのくせに」 「ぁ、真紀っ……ぁっ」 「作業服のツナギから見えても、いいの?」  でも、ダメなんだ。真紀の手が触れるのは全部快感に繋がる。 「ン、ぁ、いいっ」 「誉さん」 「いい、から、も、一回」  今度は前から、そう誘うように脚を開いた。まだ、柔いままの孔をひろげて見せながら、寝転がり、ベッドの上、ライトのところに置いてある、コンドームへ手を伸ばす。 「……ン、して」  それを受け取った真紀が装着の間に深く絡みつくキスをして、俺は、密かに、少しだけ、イってた。  真紀の手がうなじを撫でるその感触と、差し込まれる舌の熱さだけで、軽く、射精した。

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