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第43話 待て、を上手に
旅館の足元を川が流れてた。部屋の中をぐるりと探検したあと、まだ夕食まで時間があるから、その川まで下りてみようってことになった。
なんだろう。森の風って、本当に木の匂いがするんだなって。
「なぁ、真紀! あれ、魚!」
「……ホントだ」
指さした先、水面に川の流れとは別の何かが動いて揺らめいてるのが見える。小石のような苔のような、清流のような色をした、何か。真紀が、俺のその指先を辿って、視線を送り、そこにその何かを見つけた。
そして、その場で靴を脱ぎ、靴下まで脱いで、驚いている俺にクスッと笑うだけ、何も言わず、川の中へと足首までだけれど入ってしまった。
「真紀?」
「誉、水、すごい冷たい」
長く骨っぽい指が足元を流れる水に触れると、そこだけ水が驚いたように跳ねて、水面がざわつく。
静かで穏かな声、でも、悪戯を楽しんでいそうな笑った顔が木漏れ日に照らされる。
「……」
「誉」
ドキッとした。それにさ――。
「透き通ってて、綺麗だな。さっきは魚釣りに忙しくて、ちっとも気が付かなかったけど」
「……」
「でも、やっぱり冷たすぎる。氷水に足をつけてるみたいだ」
それに、すげぇ破壊力。
「誉?」
思わず、その場にしゃがみ込んだ。膝を抱えて、足元に微熱と躊躇い混じりの大きな溜め息を落っことす。
「誉? 疲れた?」
「……」
「ほまっうわあああ!」
本当だ。すごい冷たいんだな。川の水もこのくらい上流になるとそんなに冷たくなるのか。水から上がった真紀の爪先が凍えて真っ赤になっていた。
その真っ赤になった足の甲に掌を重ねると、真紀の、真紀らしい叫び声が涼やかで澄み切った空気の中に響き渡った。
「誉っ」
「びっくりした?」
あったかい? 冷え切った後の足に人の掌はきっとすごくあったかく感じるだろ?
「っ、ドキドキする」
「ただの足なのに?」
「うわっ、ちょ、誉っ」
触れただけじゃ体温の戻らない氷のような足の甲、そこに浮き出て見える骨を指先でなぞって、脚の指の間をくすぐった。こそばゆいと身を捩る足の甲を捕まえて、また、掌を重ねる。そしてまた骨んとこをくすぐって。そんなことを繰り返し数回やれば、ようやく真紀の足先に体温が戻ってきた。
「あったまった?」
「……」
でかい足。でも、一日中革靴で仕事しているからか、親指の付け根部分の皮膚がやたらと硬くなっていた。あと、やっぱ、足先がすぼんでる? 内側に折れてる? 少しだけだけれど、外反母趾みたいなさ。俺は安全靴だから、あんまりないんだ、そういうの。
その、硬くなった皮膚が、俺の黒ずみが取れない指先に似てる気がして、ちょっとした仲間意識っていうかなんていうか。
とにかく楽しくて。
「足指敏感? くすぐったいのって、性感帯なんだってさ、知って、……」
見上げたところで、触れた。真紀の唇が触れて、すぐに離れた。
「ゾクゾク、した」
「……」
「誉に足触られて、ゾクゾクしたよ」
真っ赤になりながら、敬語じゃなくて、柔らかくちょっと子どもっぽい口調でそんなことを告白されたらさ。
「貴方に、足で、イかされるかと、思った」
「!」
ゾクゾクしたのは俺のほうだ。イかされるっていうか、ツボ押されて力が入らなくなったのは俺のほう。
真紀の話すタメ口も、名前呼びも、もうなんかすごくクル。しかも、こんな清らかなせせらぎの大自然のど真ん中でキスとか。足で、とか。
「誉の手も指も気持ち良すぎるんだ」
そんなこと言ったら、真紀の、その声も気持ち良すぎて、イきそうだけど?
「もう一回、キス、したい、誉」
ふたりでしゃがみこんで、新緑の中、リラックスどころか、水の冷たさが染み込んで馴染んだ俺の手と俺の体温に馴染んだ真紀の足、唇も、触れ合ったところ全部がくすぐったい。真紀の敬語じゃない言葉使いにも、そして、低い声の囁きにも、耳までが、くすぐったかった。
我慢大会みたいだ。
「あっ……ン、真紀っ」
部屋に戻って、汗と疲れを流すのに部屋の露天風呂に来たって、こんなの切なさが増すだけ。
「真紀、も、したいっ」
「もうすぐで夕食だから」
「んっ、あぁぁっン」
切なくておかしくなりそう。
「真紀っ」
岩と木々、それに竹で作った柵に遮られて、誰にも見えないけれど、夜に変わっていく夕暮れの下、自分からこんなに脚を広げて、お前のことねだってるのに。
「あ、やぁっ……ン」
乳首を噛まれながら、真紀の中指と人差し指が我儘にうねるって駄々を捏ねる内側をイイコイイコって撫でている。
「ん、ぁっ真紀っ」
火照った身体に真紀の指は切なすぎて、おかしくなりそう。
「真紀っ、ぁ、ンっ」
「っ」
「真紀、真紀、ぁ、やっ」
しがみ付いて、孔でもしゃぶりついて、でも、まだ「待て」のまま。
欲しくなる。奥のとこ、真紀のペニスしか届かないところを激しく犯されたくて、どうにかなりそうなんだ。指で掌で身体の内側もペニスも可愛がられてるとたまらない。腰が勝手に揺れるけど。
「気持ちいいでしょ?」
「あ、あっ、あぁっ」
「誉」
「ん、んんん」
まだ我慢。
「あぁぁっン」
前立腺をわざと外して、中で指が内壁を広げるように擦ってる。もどかしさに身悶えながら、真紀の痛いだろってくらいに張り詰めたペニスを握り締めた。
「ぁ、ン、キスしたい。エロいの、ちょうだい、真紀」
「ん」
舌を伸ばして、しゃぶられて、そのまま口の中が荒らされていく。唾液でびしょ濡れになっていく。
でも、まだ我慢。
「イきそ、真紀」
「誉っ」
「イきたい、真紀」
もうちょっとだけ我慢。
「ぁ、ン……もっとほぐして、真紀の指で、すぐにセックスできるように俺のそこ
このあとの豪勢な食事よりも、美味そうな酒よりも、もっとずっと、絶対に美味くて甘いデザートを早く食べたいから、我慢しないと。支度、しておこなないと、だろ?
「たくさんほぐして」」
呼んで捕まえて、お湯の水音にも負けないくらいの蜜音がいつの間にか夜の色になった空に響いていた。
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